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競争優位性の本質は変化する
競争上の優位性を確立するうえで、オペレーションは常に重要な要素となってきた。そして、それはいまも変わっていない。どの企業のどのCEOよりも大きな株主価値を生み出してきたティム・クックも、オペレーションのスペシャリストである。彼は、明確なビジョンを持つスティーブ・ジョブズがアップルを率いていた時代でさえ、同社の成功の秘訣はオペレーションの革新性にあったと確信している。
ただし、競争優位性の本質は、時代とともに変化する。そして、オペレーションがそこで果たす役割もまた変化していく。
歴史を振り返れば、オペレーションの主な戦略的価値は規模の拡大にあった。経験曲線に乗ることで、自己強化的な「効率」の優位性を高められたのである。
しかし、デジタル革命が訪れ、静的かつ物理的な意味での規模のメリットは失われた。サプライヤーと消費者をつなぐデジタルプラットフォームやエコシステムの構築、活用によって、小規模なスタートアップでも圧倒的な立場と高い利益率を獲得できるようになったのである。
レジリエンス:今日のオペレーションの優位性
優位性を生み出す新たな源泉となっているのは、柔軟性だ。つまり、変化し続けるテクノロジーや競争環境に合わせてビジネスモデルを調整していく能力である。
柔軟性にはさまざまな形がある。新たなビジネスチャンスが到来した際にソリューションを迅速に拡大する能力を指す場合もあれば、予期せぬ衝撃に耐えるレジリエンスを指す場合もある。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックの最中には、レジリエンスが優位性の源泉であることが証明され、それが企業間の業績の著しい格差としても表れていた。パンデミック前の業績レベルを回復できなかった企業もあれば、いったんは回復したものの、その後、一時的な優位性を失った企業もあり、パンデミック後の環境において持続的に成功を維持できる構造的な勝者となった企業はほぼ皆無だった。
パンデミックの影響は、レジリエンスの価値を浮き彫りにしたことだけに留まらない。レジリエンスを危機の際に適用される直感的なアプローチから、恒常的、体系的、かつ反復可能な能力へと変えるために、オペレーションチーム内および組織全体ですべきことも明らかにした。
パンデミック後に訪れた複数の危機が共存する世界では、レジリエンスの能力を磨いて体系化することが極めて重要だ。そのために、リーダーは次のことをしなければならない。
1. 適切なマインドセットを取り入れる
財務管理に関するマインドセットでは、効率性がこれからも極めて重要な要素であり続ける。金利の上昇とともに、短期的な収益を求める投資家の声が強まっている現状では、とりわけそうだ。レジリエンスへの投資は非効率的に見えかねず、すぐに回収できるとも限らないため、マネジャーはレジリエンスを過小評価してしまう。
だが過去の経験を分析すれば、レジリエンスは株主価値を高めることがわかる。25年のスパンで見ると、企業のTSRの30%は危機の時期(25年のうち、わずか11%を占めるのみだが)に蓄積されたものだ。
危機を、一時的に身を守るべき衝撃ではなく、競争のチャンスとして活用するものと位置づけられれば、レジリエンスは長期的な業績の向上を促進できる。つまり、ベンチマークとしている指標を上回り続けることができる。リーダーは、レジリエンスを戦略的能力ととらえる必要がある。この能力は、新たに登場したビジネスモデルを選択・拡大する力に加えて、みずから試行錯誤する力を伸ばすことで向上する。そして、想像力を駆使して企業を能動的に再編成し、環境を再構築することで磨かれる。
2. ホリスティックなアプローチを取る
レジリエンスの構築には、早期の警戒システムの構築、余剰を含む複数の製造拠点や供給チャネルの整備といったオペレーションレベルでの対応も含まれる。だが同時に、オペレーションレベルを超えた次元でレジリエンスをとらえる必要もある。レジリエンスはシステムの一部ではなく全体に関わる課題であり、企業はより広範なアプローチを取るべきだ。
自社の枠を超えた対策も求められる。自社の目標や活動を、より広範なビジネスエコシステムや社会と連動させることで、企業は危機の際に頼りにできるステークホルダーとの関係を強化できる。