2. 日常的なツールやプロセスに学習機会を組み込む

 一貫したルーチンをつくると、優れたパフォーマンスが生まれやすくなる。標準的な手順やテンプレート、チェックリスト、アジェンダを定めた週次ミーティング、日次ミーティング、戦略的な計画立案、ダッシュボード、四半期レビューといったツールが使われるのは、そのためだ。

 だが、こうした仕組みは、物事を成し遂げることだけに焦点を当てるべきではない。マネジャーがいない時でも、チームが定期的に学習ゾーンに入れるようなプロセスを設計することは可能だ。そこで、継続的な改善を促すルーチンを確立する方法を紹介しよう。

・ミーティングのアジェンダに、参加者が質問や困難、失敗、アイデア、インサイト、フィードバックを共有するためのセクションを設ける。

・チェックリストに、何がうまくいき、何がうまくいかなかったか、そして今後どのような部分を変えてみるべきかを反省するステップを含める。

・標準的な手順やテンプレートに従ったのにミスが生じた場合は、そのミスを繰り返さないためには、どのようにプロセスやツールを変更すべきか考えるよう促す。

・プロジェクトでは、中間レビューや事後レビューを実施することを標準的な慣行にする。

・日次ミーティングなどを実施して、何をどのように改善しようとしているかを個人とチームが再確認できる仕組みを導入する。

3. 学習者の模範となる

 筆者は基調講演の冒頭で、聴衆に対して、同僚にどのように思われたいかと聞くことがよくある。すると、「信頼できる人」「協力的な人」「物事をきちんと説明をする人」「共感的な人」「知識豊富な人」「有能な人」「責任感がある人」「サポート的な人」といった肯定的な資質が挙げられる。「学習者」とか「発展途上の人」、つまり自分を成長させ続けているといった資質が挙げられることはめったにない。

 学習する文化をつくりたいなら、マネジャー自身が学習者と見なされるように意識的に行動する必要がある。多くのリーダーは、継続的な改善の重要性を理解している。本を読み、ポッドキャストを聴き、信頼するメンターに意見を求め、実験をし、反省する。しかし、これらはチームメートには見えない、個人的な場で行われがちだ。

 マネジャーは学習の重要性をチームに語り、それを自分の行動で示さなければならない。すると周囲も学習者として行動するようになる。それもコラボレーション的に学習することで、さらにパワフルな成長がもたらされる。

 以下を自問してみよう。

・あなたのチームは、あなたがどのようなスキルの向上に取り組んでいるか知っているか。

・さまざまな人から、少なくとも週に数回、フィードバックを集めているか。

・あなたはわからないことがある時、それを認めるか。それとも、いつも正しい答えを知っているマネジャーとして振る舞っているか。他者の意見に耳を傾けると、誰もがいつも理解を広げてよいという考えをサポートできる。

・課題に取り組んだり、困難に直面したり、失敗したりした時、それを周囲に話し、反省を述べ、意見を求めているか。

 そんな行動を取ったら、自分と自分の組織に対する信頼を失うのではないかと、あなたは不安に思うかもしれない。だが、こうした行動こそが成功を可能にする。現代の複雑で変化のスピードが速い世界ではなおさらだ。あなたが模範となれば、あなたのチームはより自信を持って学びに取り組み、活躍するための準備ができる。

4. 学習に関するメッセージを定期的に強化する

 リーダーが望ましい企業文化を説明すると、それを実現する素地をつくることができる。しかし、マインドセットや行動を変えるには時間がかかり、定期的な強化が必要だ。定期的なリマインダー(とりわけ取り組みの初期段階で)が必要だ。

 フィードバックの意味をチームに再認識させることを習慣にしよう。フィードバックとは、優れた成果を上げている人が、さらに向上するために活用する情報だ。同僚たちが失敗を振り返って、話し合うよう促すことで、貴重な教訓を引き出させよう。このような学習するうえで不可欠な行動を称賛しよう。

 また、チームの中核となる価値観や規範についても頻繁にリマインドしよう。誰かが望ましい行動を取っていることに気づいたら、それを取り上げて、称えよう。そして誰かが(特にあなた自身が)望ましくない行動を取ったら、それを指摘し、なぜそれが起きたのか、どの部分を変えられるか話し合おう。

 パフォーマンスゾーンと学習ゾーンのどちらにいるのか、そしてどのように行動するのかを、定期的に明確にしよう。顧客との重要なミーティングの準備をしている時は、純粋にパフォーマンスゾーンで挑むべきか、ミーティング中に異なることを試したいか。どちらでもかまわないが、暗黙の前提と考えていることを明示化しよう。はっきりとチームの足並みを揃えることによって、新しい考え方を強化するチャンスをつかもう。

5. 違う方法を試すべきことや、改善するためにどうすべきかについて、定期的に議論するスケジュールを組む

 定期的に学習とパフォーマンスのルーチンと仕組みを見直して、調整すべきことを話し合おう。もしあなたのチームの仕事の仕方が先月や昨年と同じなら、おそらく改善は起きていない。それどころか、世界は変わっているのに、あなたのチームは変わっていないということは、その働き方の有効性は低下している。

 ひょっとすると、あなたがミーティングに時間をかけすぎていて、メールやチャットなどで非同期に伝えられるはずのことをそこで伝えているのかもしれない。メールが短すぎて混乱や無駄な作業を招いたり、逆に長すぎて過度に詳細になったりしているかもしれない。定期ミーティングで、チームが仕事の内容や変革への取り組みをローテーションで発表するようにすれば、システム思考や部門横断的なコラボレーションを促進できる。

 このような会話は、パフォーマンスの向上につながるだけでなく、全員に日常業務に対して異なるアプローチを促す学習の文化を強化する。

パフォーマンスのパラドックスを克服する

 2つの努力の形態に気づいていないこと、そして現在を過大評価して、未来を過小評価する人間本来のバイアス、さらには学習のために設計されていないシステムの存在が、私たち自身の成長への投資を不足させている。

 学習に力を入れるとパフォーマンスが低下すると思われがちだが、これは近視眼的な考えだ。多くの領域の研究では、正反対のことが示されている。すなわち、トップの成績を上げる人たちは、日常的に学習ゾーンに入っている人たちなのだ。たくさんの時間をかける必要はない。大切なのは、物事を成し遂げつつ、日々の仕事や生活にどう取り組むかだ。

 仲間のアイデアを探り、既知の枠を飛び越えて、新しい仕事のやり方を試し、質問し、実験し、失敗を検証し、フィードバックを求めれば、より賢く仕事をこなし、より大きなインパクトを残す方法が見えてくるだろう。


"Is Your Team Overworking But Underperforming?" HBR.org, October 13, 2023.