新しいプロジェクトを立ち上げる時、健全な緊張関係のマップ(構図)を作成するチームエクササイズをすると、良好なスタートを切れるだろう。まず、各チームメンバーが、チームにもたらす自分の専門知識と、自分が重視する問題を明らかにする。次に、自分が擁護しなければならないステークホルダーの説明をする。そして最後に、各自が役割上、チームにもたらす緊張を簡潔に説明しておく。
たとえば、営業担当者は競争に注目し、潜在的な顧客を擁護し、差別化されたソリューションを確保しようとするかもしれない。一方、業務担当者は納品のしやすさに注目して、製造や物流関係者を擁護し、スケール可能なものを求めるかもしれない(このエクササイズの詳細な方法については、こちらを参照してほしい)。
筆者は、このエクササイズを何百回となくファシリテートしてきた。その経験から断言できることとして、チームに大きな変化が起きるのは、全員が自分の役割上必要なことを主張するのは正当だと理解されていると感じ、反対意見を受け止める心の準備ができた時である。こうして作成したマップを手元に置いておくと、とりわけ議論の大きな話題を扱う時、立ち返って確認する材料になる。
反論を促し、対立をファシリテートする
このプロジェクトキックオフのエクササイズをしている時でさえ、押し黙り、自分の見解を示さない参加者がいるものだ。チームマネジャーの仕事は、チームがあらゆるオプションやリスクやトレードオフを検討できる安全な場をつくることである。緊張関係のマップに基づき、「これまではデザインに集中してきて、実装については議論してきませんでした。ハッサン、このデザイン案が運用にどのような影響を与えると思いますか。ほかに考慮すべき要因がありますか」などと問いかけてもよいだろう。それぞれのユニークな視点がディスカッションに加えられるまで、意見を募る。
出席者に積極的に意見をぶつけ合うよう促すだけでなく、人気のない意見や反対意見、そして矛盾する事実にも耳を傾けさせる必要がある。「まだ対応できていないリスクは何でしょうか」「このプランに反対の人はいますか。その理由は何ですか」「このプランが失敗するとしたら、どのような理由によるのでしょうか。そのリスクを低下させるためには、どのような変更が必要でしょうか」といった問いかけよって、一定の緊張を注入してもよいだろう。
対立を避けたがる文化圏では、直接的な反対意見を募るのではなく、どこがうまくいかなくなりうるか、あるいはどのような人が反対意見を抱きうるか、といった仮定を通じて懸念を示してもらえば、反対意見を言うことから感情的に距離を置ける。
摩擦を管理する
すべての対立が健全とは限らない。建設的な緊張から破壊的な摩擦へとダイナミクスが変化した時は、プロジェクトマネジャーが議論の方向を修正できなければいけない。誰かが口を挟んだり、異論を唱えたり、他人をけなしたりした時は、プロジェクトマネジャーが介入する必要があるかもしれない。
具体的な方法は状況によって異なるが、話しすぎの人にはほかの人も話せる余地をつくるよう促したり、人の話を聞いていない参加者には同僚の懸念をなぞったうえで意見を述べるよう求めたりできる。また、「このプロジェクトでは優先順位の衝突が起こることはわかっていました。品質保証チームがこのプランに盛り込む必要があると言っていることをどうすれば実現できるか、1分ほど話し合いましょう」と提案することもできる。
誰かの行動がチーム全体を混乱させたり、個人攻撃になった時は、プロジェクトマネジャーにもその場のダイナミズムを管理できなくなる。ミーティングの前に喧嘩腰の人と話をする時間を設けて、どのような振る舞いを求めているか伝え、何がその人を喧嘩腰にさせるのか、率直に話し合おう。もし不愉快な、あるいはプロフェッショナルでないやり取りが発生した場合は、その行動がプロジェクトにダメージを与えることを個人的なフィードバックとして伝えよう。それでも問題が続く場合は、その人の上司に相談する必要があるかもしれない。その目的は、不満を言ったり、告げ口をしたりすることではなく、何が起きているかを伝え、その人の長所を引き出す方法について助言を求めることだ。
大きな権限を持つ人に影響を与える
ほとんどのプロジェクトマネジャーは、大きな責任を負っているが、重要な決定を下す正式な権限は持たないことが多い。その代わり、正式な意思決定者やエグゼクティブスポンサーに影響を与えなければならない。必要な対立が、プロジェクトマネジャーよりも大きな権限を持つ相手との間で生じる場合、4つのガイドラインに従うことが役に立つだろう。
・自分の懸念をプロジェクトの目標(リーダーが明言した目標であることが望ましい)と結びつける。たとえば、「君が期限を最重要視していることはわかっています。ただ、君の提案する範囲ではスケジュール的に間に合わないのではないかと心配です」と言う。このような言い方をすると、その反対意見が、プロジェクトのためであることを明確にできる。
・あなたの懸念を、その人物の行動の客観的な描写に変える。たとえば、エグゼクティブスポンサーがチームのやる気を失わせているなら、「ほかの人が意見を言う前にあなたが意見を言うと、会話が止まってしまいます。後でではなく、いま問題点が指摘されるようにするにはどうしたらよいでしょう」と聞く。
・権力のある人に、対立的な意見を提起する必要がある時は、その狙いを明確にする。たとえば、オフィスの壁に、この会社は透明性を重視しているという真鍮のプレートが飾られていたら、「私は、我が社の透明性という価値観のために努力をしています」と言おう。そして「このことを切り出すのは気が引けますが、マーケティング部門が賛同してくれるなら重要なことだと思います」と言うとよいだろう。
・勧告を、語気の強い主張ではなく、質問として定時することで、相手に出口を残しておいてやる。「~であるべきだ」ではなく、「~することもできる」と表現するのだ。たとえば、「それは次の段階に移したらどうなるでしょう」と言う。反対意見を質問として組み立てると、権力のある人に強く反論がある時、軌道修正する余地を残すことができる。
プロジェクトマネジャーは、ばらばらになりかねないチームをまとめ上げる要である。あなたの仕事は、対立する力をうまく活用して、多様な視点の恩恵や、そうした視点がもたらす影響に関する十分な知識、そしてさまざまな優先課題間の最適なトレードオフを踏まえて決定が下されるようにすることだ。その責任を果たすためには、建設的な衝突を歓迎し、関連するスキルを磨く必要がある。
"The Conflict Resolution Skills Every Project Manager Needs," HBR.org, October 20, 2023.