レファレンスチャートを使う

 標準的な例を示すと明確な意味をつかむ認知的なヒントとなり、聴衆をガイドすることができる。平均値、目標値、その他のレファレンスポイントを示すことは基本的なチャートでも役立つが、珍しい形式のチャートの場合には特に効果的だ。

 トムの営業スキルを7つの異なる尺度で評価したい場合は、以下のようなドットプロットを使うことができる。あるいは、複数のデータポイントで形作られるスパイダーグラフ(レーダーチャートとも呼ばれる)を試してみるのもいい。

 トムの「総合的な」成績を評価するのはドットプロットでは困難だ。7つの異なるデータポイントを評価し、それらを組み合わせた意味を直感的に判断したいからだ。スパイダーグラフなら、全体が1つの形として表される。

 とはいえ、それ単体では意味がない。このグラフを単独で提示すると厄介な疑問が生じる。これは「典型的な」形なのか、それとも「良い」のか。トムの全体の「スコア」は一目瞭然だが、要点であるトムの全体的な「成績」についてはほとんどわからない。 

 では、「目標とする成績」と「平均的な成績」という2つの標準的なレファレンスを、次のスパイダーグラフ用の原稿と共に加えてみよう。

「望ましい形はチャートの右側に傾いています。これらのスキルは営業の成功とより密接に関係しています。しかし、営業チームは平均的に左に大きく傾いています。右側のスキルの開発がおろそかになっていないでしょうか。トムの成績は平均よりも右に偏っていますが、蝶ネクタイのような形に注目してください。上と下のポイントは平均を下回っています。ストーリーテリングとカンパニープレゼンテーションのスキルを向上させる必要がありますが、特に後者が重要です。そこに投資する必要があります」

 レファレンスチャートがトムのチャートに意味を与えていることに注目してほしい。レファレンスチャートが期待値を設定して、独断的な理解に陥らないよう役立っている。また、形がシンプルなので詳細は必要なく、縮小できる。営業チームの全メンバーを小さなチャートにしても、追加の説明はほとんど必要ない。こうしたビジュアライゼーションに慣れたチームにはラベルすら不要かもしれない(チャートを使う経験を積むにつれて、意味をつかむのが巧みになる)。

以下で示す一式のチャートのように、マネジャーがチームの成績の形を一目で見ることができる営業ダッシュボードがあったらどうだろう。ラベルがなくても、先に1つの例を見ただけで成績トップと最下位がすぐにわかる。

大事なことを話す時はチャートを隠す

 このプレゼンのテクニックはジョージ・アルバレスから伝授されたものだ。彼はハーバード大学での講義で、データビズをスクリーンに映している限り学生たちはチャートから視線を逸らさないことに気がついた。別の話題に移り、重要な点を説明しようとしている時も、彼らは耳を傾けていなかった。

 ある日の講義で、アルバレスはビジュアライゼーションを見せ、大事な話に差し掛かったところでスクリーンを消した。その効果は驚くべきもので、チャートに釘付けだった学生たちの視線がさっと彼に向けられた。他に見るものがなくなり、熱心に耳を傾けた。

 これは独特なテクニックで、練習が必要だ(アルバレスの勧めで私も試してみた。気味が悪いほど即効性があり、慣れるのに時間がかかるが、効果はあった)。しかし、どんなプレゼンでも自分の発言に注目してもらいたい時がある。成績について警鐘を鳴らす時、戦略変更の理由を説明する時、あるいは資金を求める時かもしれない。ここ一番でのベストな行動は、ビジュアライゼーションを見せないことだ。聴衆があなたに注意を向けざるを得ないようにしよう。

『ハーバード・ビジネス・レビュー流 データビジュアライゼーション』

<著者> スコット・ベリナート
<内容紹介> 世界最高峰の経営誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』、その公式サイト「HBR.org」やアプリ等で、ビジュアル・ストーリーテリングを牽引するシニアエディターが、持てる知識とノウハウをすべて詰め込んだ、データビズ決定版!

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