全員の認識を一致させる
シンプルな一対一の話し合いをするだけでは、混乱を解消して、すべての人にとって有効な成功の定義を見出すことはできない場合もある。
対立に対処しようとする人物(たいてい、対立の間で板挟みになるのは製品の責任者だ)はまず、一人ひとりのステークホルダーと個別に話をして、問題を整理すべきだ。そうすることにより、双方が強いこだわりを持っていない場合は、地味な問題解決策に素早く到達できるかもしれない。
一方、このやり方でうまくいかない場合、対立に対処しようとする人物は、次のステップに進むことになる。関係のあるステークホルダー全員を一堂に会させて(バーチャル形式でも対面形式でもよい)、話し合いを行うのだ。
対立の根深さによっては、影響力のある人物を招き入れて仲裁と問題解決を担わせる必要があるかもしれない(会議を招集する人物は、最初の一対一の対話を通じて対立の深刻さの度合いを把握できるはずだ)。招き入れる仲裁者は、COOやCFOなど、最高幹部の中の誰かでもよいし、それ以外の社内で高い地位にあるメンバーでもよい。あるいは、組織コンサルタントなど、中立の第三者でも構わない(ただし、対立している双方の同意を得られる人物でなくてはならない)。
このような会議を招集する人物は、すべてのステークホルダーが一致できる点を明らかにすることから出発すべきだ。時には、会社のビジョンを記したステートメントまで立ち戻らなくては共通認識を見出せない場合もあるかもしれない。いずれにせよ、その狙いは、誰もが同意できるものを見出すこと、そしてそのうえで、いま議論しているテーマに関して何を持って「成功」と考えるかについての合意を築くことだ。
このプロセスには、強烈なストレスがついて回る場合がある。そこで、実際の議論と最終決定の間に、少し時間を空けることが有益だ。たとえば、誰もがリラックスできるように、コーヒーブレイクを設けるなどすればよい。それにより、強まっていた重圧を解き放つことが目的だ。
最後にもう一つ。筆者の一人(ウォーカー)がこの種の会議を招集する際は、ステークホルダーたちに会議の内容を要約した文書を提出させている。その会議で合意した内容、そしてそれが自分と自分の部署にとって意味することを書かせるのだ。すべてのステークホルダーが記す内容が一致するまで、話し合いを重ねる。多くのリーダーが思っている以上に、意見の相違はよくある現象であり、そのような意見の相違が生み出すコストも大きいからだ。
諦めるべき時期を知る
もっとも、どんなに努力しても、すべての人の考えが一致するとは限らない。それぞれのステークホルダーが自分の主張を譲らない場合もあるだろう。もし、その問題が些細なものであれば、対立の板挟みになっている人たちは、そうした状況からせめて最善の結果を引き出すことでよしとして、前に進むことを考えてもよい。
スタートアップ企業で創業者と投資家のビジョンが食い違っていたり、既存企業の社内に政治的な足の引っ張り合いを奨励するような文化が根を張っていたりする場合、最良の人材が出ていってしまう可能性が高い。常に対立が存在したり、仲間割れに終始していたりする職場に留まれば、みずからが成功するチャンスを活かせなくなる場合が多いからだ。
複数のステークホルダーが異なるビジョンを持っていることは、けっして珍しくない。時には、相反するテーマを追求している場合もある。それでも、対立の原因を突き止めて、問題をみんなで解決すべく、徹底した努力を払えば、会社を繁栄させられる可能性が高い。会社が派閥に分裂し、それぞれの派閥がひたすら自己利益を追求する事態を避けることができるのだ。
"What to Do When Stakeholders Have Competing Visions," HBR.org, December 06, 2023.