リサイクル素材が環境に優しい製品を生むとは限らない
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サマリー:企業に脱事業化を求めるステークホルダーからの圧力がますます高まっている。企業が有意義な形で脱炭素化に集中するための方法の一つが、会計の手法を用いた「E負債」というシステムだ。本稿では、E負債のアプローチ... もっと見るを活用し、筆者らとともに、日立エナジーとそのサプライヤーが異なる生産技術における排出量を正確に計算するために作成した枠組みについて紹介する。 閉じる

日立エナジーと排出量を算出する枠組みを作成

 今日の企業は、事業の脱炭素化と気候変動への影響を緩和するよう求める、社内外のステークホルダーからの圧力にますますさらされている。しかし、企業が「グリーン化」や「ネットゼロ」、あるいは「循環型経済」の採用を迫られているとはいえ、炭素会計の厳密なグローバルシステムがないため、こうした圧力は実質的なものというよりも、うわべだけのもののように感じられるかもしれない。また、これらの用語には確立された定義がないため、ステークホルダーが脱炭素化とは関係のないイデオロギー的な計画を推進したり、企業自体がグリーンウォッシュを行ったりする隠れ蓑になるおそれがある。

 こうした妨害を防ぎ、企業が有意義な形で脱炭素化に集中するための方法の一つが、財務会計と同じ精度と検証可能性で運用される厳格な炭素会計だ。2021年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に掲載された論文で、筆者の一人(ラマンナ)はロバート S. キャプランとともに、まさにそうしたシステムである「E負債」(E-liability)を紹介し、以来、非営利団体のEライアビリティ・インスティテュートを通じて、複数の大手企業で試験運用してきた。

 最近では、日立エナジーから同研究所に対し、生産、購買、製品設計における排出量を正確に測定するためにE負債のシステムを導入したいという申し出があった。同社には対処したい特定の問題があり、E負債のアプローチが、よりよい解決策のためのデータを作成するのに役立つと考えたのだ。

 日立エナジーは、変圧器の製造にバージン銅ではなくリサイクル銅を使用するよう圧力を受けていた。その圧力は、リサイクルされた投入物のほうが「よりグリーン」である、つまり環境に優しいと考える人々からのものだった。しかし、変圧器の複雑なサプライチェーンに精通した日立エネジーのエンジニアやマネジャーはその見解に懐疑的で、データに基づいた答えを導き出すための会計手法を必要としていた。