バイアスがしぶとく残る理由を理解する

 なぜPS1にとって、評価バイアスへの対処は見方のバイアスへの対処よりも難しかったのだろうか。評価バイアスは測定が難しく、多くのバイアス軽減の取り組みにおいてもなかなか着手されない傾向がある。筆者らは独自の研究設計によって、通常は可視化されないプロセスの内側を覗き、業績審査のサイクルにおいて評価というステップが軽視されていることを突き止めた。

 調査サンプルでは、男女の全体的な数値評価は公平に見えた。評価の平均にジェンダーによる差はなかった。しかし、特定の行動と評価の相互関係を分析すると、同じ行動でもジェンダーによって報われ方に差があることが明らかになった。

 バイアスは、従業員の行動と従業員が受ける最終評価との関係を歪める。実際に示した行動と評価の関係を測定し標準化するための積極的な手段を講じなければ、不公平を招くことになる。

 こうした調査結果に意味があるのは、マネジャーが公式にも非公式にも、従業員の行動を常に観察し評価しなければならないからである。マネジャーは採用の決定や正式な業績評価を行うだけではなく、キャリア前進のための能力開発にまつわるフィードバックをし、ストレッチアサインメント(現在の実力では簡単には達成できないものの成長を促す課題)を与え、サポートを提供する。その中で、従業員の行動、スキル、業績の成果をたえず認識し、給与や昇進、アサインメントという形で、従業員の価値について判断を下す。

 ジェンダーによって同じ行動に対する評価が違えば、昇進の面で男女を異なる経路に進ませることになる。たとえばテクノロジー分野では、スキルに関する固定観念から、男女が別々のキャリアパスに押し込まれることがよくある。女性はしばしば、ソーシャルスキルはあるが技術的スキルに欠けると見なされて、技術系ではない職務を奨励され、逆に男性は技術者としてキャリアパスを追求するよう促される。

見方と評価のバイアスを軽減する方法

 企業がバイアスに効果的に対処するには、キャリアの全過程で従業員がどのように見られ、評価されているかを問う必要がある。

マネジャーへのサポートを提供する

 見方のバイアスは、採用や業績評価の場面で用いられるジェンダー関連の言葉で表出することが多い。実際、多くの企業は、求人広告や業績評価のジェンダー的な言葉を発見して減らすことを目的としたソフトウェアツールをマネジャーに提供している。しかし、従業員の行動を偏りなく評価するという側面に対しては、同種のサポートはない。

 PS1の場合、従業員の業績評価のための詳細な評価基準をマネジャーに提供したが、実際にマネジャーが従業員の具体的行動をどう評価したかとなると、まだばらつきがあった。企業は、研究者のように言葉と評価の相互関係の分析はできなくても、マネジャーが従業員に関する決定を下す際に認識と評価のバイアスを考慮に入れられるようなプロセスをつくることはできる。

 このサポートをマネジャーに提供する一つの方法は、従業員についての記述から始まり、最終的な評価と報酬に至るまでのガイドラインを構築することである。たとえば、クライアントと緊密なパートナーシップを築くといった具体的行動に対して与えるべき報酬について、指針を提供する。さらに重要なのは、そうした基準がどの部署やチームにおいても一貫性を持って適用されることである。

 正式な業績評価をやめようとしている企業もあるが、書面による評価をやめたからといって、マネジャーのバイアスがなくなるわけではない。筆者らは書面評価のデータをバイアス分析のために利用したが、たとえ書面にしなくてもバイアスは働くのである。

 企業は、マネジャーが従業員へのフィードバックやキャリアに関わる決断をする際に、どのように従業員の行動を認識し、相応の報酬を与えるべきかについて、ガイドラインの標準化に取り組むべきである。

マネジャーへの包括的な研修を実施する

 研修では往々にして、バイアス軽減のプロセスにおける一つのステップ、つまりマネジャーが従業員をどう見ているかという面しか扱わない。筆者らの研究が示すように、包括的な介入には2つのステップが必要である。

 もしマネジャーがバイアスの一つのタイプしか理解していなければ、ほかの形でバイアスが意思決定に入り込んでも気づかないだろう。マネジャーやリーダーが確実に、評価バイアスとは何かを理解できるようにする必要がある。PS1の介入では、マネジャーにジェンダーバイアスの存在について学ばせたが、従業員についての記述がどのように評価と結びついているかをチェックする能力までは養えなかった。評価バイアスは目に見えにくく測定しにくいので、特別なステップを設けてマネジャーを教育するとよい。

従業員のキャリアの全期間で公正な手続きを構築する

 バイアスは年に1~2度、業績評価の際に出現するものではなく、キャリアの全期間にわたって従業員に影響を与える。報奨を配分されるあらゆる局面において、バイアスが生じる可能性がある。同時に、企業が公正な手続きを実施する機会にもなる。募集、採用、プロジェクトの割り当て、コーチングやメンタリング、昇進、給与、そして解雇の決定の際に、従業員の行動がどのように見なされ評価されているかを検討しよう。キャリアのあらゆる局面において従業員の行動を観察して認識し、評価する基準を構築し、規範を設定することが大切である。

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 バイアスを軽減する取り組みを見方だけではなく評価にまで広げることによって、企業はバイアスに首尾よく対処し、より公平な職場をつくり出す重要な一歩を踏み出せるだろう。


"Research: Why Gender Bias Persists, Even When Organizations Try to Curb It," HBR.prg, December 20, 2023.