「問題」と「課題」の違いを理解しているか
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サマリー:データ分析をしていると、「データから新たな気付きを得た」「高精度な予測モデルを作った」「施策の効果を厳密に検証した」といったことに達成感を感じるのではないか。しかし、これらはいずれも「役立つ」データ分... もっと見る析とは言えない。第2回では、データ分析がビジネスへの貢献に失敗した5つのケースについて、「問題」と「課題」の観点から考えていく。本稿は、データ分析の第一人者である河本薫氏による『データ分析・AIを実務に活かす データドリブン思考』(ダイヤモンド社)の一部を抜粋し、紹介したものである。 閉じる

5つのケースから考える「問題」と「課題」の違い

 言葉だけではなかなか実感を持ってもらえないと思いますので、データ分析をして「分かる」ことに成功したが「役立つ」ことには失敗したケースを2つ挙げましょう。いずれも架空の話ですが、実際の企業でもこれに類似した失敗談はよくあります。

│ケース1│ ビジネスに貢献しない分析
 薬品メーカーA社では、主力商品の育毛剤のシェアが低下している問題に直面していた。そこで、営業部では、テレビCMやWeb広告を増やすことに決定した。営業部のあなたは、テレビ視聴データやWebアクセスのデータを分析し、営業部はそれに従って、どのチャネルにどれだけの予算を投入すべきか決めた。

 一見、きちんと仕事をしているように思われるかもしれませんが、もしA社の育毛剤の育毛効果が他社製品と比べて低ければどうでしょうか。もしA社の育毛剤を店頭に配架している店舗が少なければどうでしょうか。CMやWeb広告を増やして認知率を上げても、一時的には多少効果が出るかもしれませんが、シェアが増えるまでには至らないでしょう。もしそうならば、あなたのデータ分析は、ビジネスに貢献しない取り組みとなっているのです。仮にあなたが完全なるデータ分析を行い、チャネル別の予算配分を最適化したとしても、そのデータ分析は無意味なのです。

│ケース2│ 会社の利益を減らす分析
 あなたは、コピー機のリース業を営むB社の社員である。あるとき、リース事業部長から呼ばれて「我が社は、コピー機を新品購入してリースし、一律5年経てば中古販売している。しかし本当は5年以上使えるように思う。顧客から返却時に行う動作確認のデータを分析すれば、残存寿命を計算できないかなあ」と言われた。あなたは、さっそく、過去の動作確認データを分析し、残存寿命を計算する手法を確立した。B社では、あなたの手法を導入することで、コピー機のレンタル寿命を平均7年まで延ばすことができた。

 一見、成功ストーリーに思えるかもしれません。でも、これも失敗ストーリーなのです。B社では、コピー機のリース寿命を7年に引き延ばした結果、会社の利益は減少したのです。

 中古コピー機市場においては、5年落ちまでのコピー機はかなり高値で取引されています。一方、5年を超えると、取引価格は大幅に下がります。B社は、コピー機のリース寿命を7年まで延ばすことで新品の購入費用を抑制し、リース事業の利益を増やしました。一方、リース商品の中古販売による収益は大幅に減りました。結果、B社全体の利益は減少してしまったのです(以上の話はすべて架空の話です)。

 あなたのデータ分析は、コピー機のレンタル寿命を延ばすことに成功した結果、会社の利益を減らしてしまったのです。無駄なデータ分析どころか、有害なデータ分析と言えます。

 いずれもデータ分析により「分かる」ことには成功しましたが、ビジネスに「役立つ」ことには失敗したのです(それどころか有害でした)。せっかく頑張ってデータ分析したのに、悔しいですね、空しいですね、もったいないですね。

 進め方のどこがまずかったのでしょうか。それを理解するには、「問題」と「課題」という観点から整理すると分かりやすいと思います。

 皆さんは普段の会話でも、問題や課題といった言葉を多用していると思います。ただ、その言葉の定義について問われると答えに窮するのではないでしょうか。
『広辞苑』で、それぞれの意味を引いてみると、問題は、「研究・論議して解決すべき事柄」と記されています。一方、課題は、「課せられた題・問題」と記されています。両者の違いがよく分からないですね。ビジネスで「問題」や「課題」といった言葉を使う場合、両者は明確に区別して使われます。

●「問題」とは、目標と現状との間にあるギャップのこと。
●「課題」とは、目標と現状とのギャップを埋めるためにやるべきこと、すなわち、「問題」を解消するためにやるべきこと。

 この「問題」と「課題」という観点で、改めて2つのケースを整理しましょう。