企業の中は間違えた「問題」や「課題」だらけ
一見成功ストーリーに見えますが、これも失敗ストーリーになりうるのです。原料調達先のX社は高品質である一方で、高価格でした。原料調達先をX社に切り替えたことで、C社の製造コストは上がってしまいました。一方、毎年改善を続けてきたC社の品質は既に高く、たとえ彼らの基準でバラつきがあると言っても、これ以上に品質を上げても売上げには貢献しなかったのです。
このケースの失敗理由は、「縦割り組織風土」の中で、品質部門という組織に閉じた目標設定をしてしまったことにあります。組織内での最適化という低い視点ではなく、企業全体での最適化という高い視点を持てば、「品質のバラつき」というごく狭い範囲の問題には取り組まなかったはずです。
これも一見正しそうですが、県知事に検討会の最終報告をしたところ「新線の開設は莫大な費用を要するじゃないですか。もっと費用のかからない方策は考えましたか? 例えば、在宅勤務や時差出勤をもっと奨励すれば、解消できないのでしょうか?」と指摘されました(架空の話です)。
公営地下鉄の混雑という問題を解消するための課題は、新たな路線開設だけではないはずです。県庁という公的立場だからこそ、まずは、在宅勤務や時差出勤を促進することを課題として取り組むべきではないでしょうか。そうならば、データ分析も、在宅勤務や時差出勤がどれほど普及すればどの程度混雑緩和されるか、を予測することに取り組むべきでしょう。
このケースの失敗理由は、問題を構造的に分解できなかったことにあります。地下鉄の混雑緩和が問題なのだから、地下鉄の中に課題があると無意識に思ってしまったのです。そうではなく、地下鉄の混雑緩和という問題を構造的に分解すれば、乗客数と地下鉄の輸送キャパシティに分解されて、乗客数は出勤者数の影響を受ける、ならば出勤者数を抑制するという課題に取り組めばよい、そういう流れになっていたはずです。
売上アップに貢献したのだからよいと思われるかもしれません。しかし、もしE社において、そもそもネット販売の売上げは全体の5%にすぎなかったとすればどうでしょう。ビジネス視点で考えれば、売上げの多くを占める店舗販売の方に目を向けるべきです。部門や担当が別々だと、案外こうした基本的な前提が見過ごされることも少なくありません。
データが入手しやすく分析しやすいという理由が先行し、ネット販売だけに取り組むような例は起こりがちです。店舗の方が売上げが多く、しかしデータがないならば、まずはそのデータをどうやって収集するか、から考えるべきでしょう。
このケースが失敗となりうる理由は、無意識のうちにデータ分析を活かすことを目的化してしまい、ビジネス視点ではなく、データが豊富かどうかで、問題を選んでしまったことにあります。
いくらデータ収集のシステムや優秀なAIの専門家を入れても、それだけではビジネスには勝てない。国内のデータサイエンティストとして草分け的存在であり、大阪ガスのデータ分析専門組織を率いた筆者。現在は滋賀大学データサイエンス学部で教鞭をとり、約25年かけてたどり着いたデータドリブン思考の重要性を示す。
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