企業を成長させたければ、まず従業員のサステナビリティを考慮せよ
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サマリー:企業が持続的に成長できるかどうかを左右する最も重要な要素は、人的資本である。したがって、心身のウェルビーイングからキャリアスキル、生きがいに至るまで、従業員のサステナビリティに注力することが業績の強化... もっと見るにつながるのだ。本稿では、すべての企業の成長戦略において、従業員が優先されていると感じられるようにするために、リーダーが戦略立案の前にみずからに問うべき5つの質問を紹介する。 閉じる

個人のサステナビリティが組織のサステナビリティを生む

 持続可能な成長を実現するのは難しい。調査によると、1985年に成長率上位4分の1に入った企業のうち、30年以上、上位4分の1の業績を維持できたのは、わずか15%程度だった。事業の運営体制、財務の健全性、内部プロセスなどはすべて、成長を持続できるかどうかを左右する重要な要素であるが、研究によると、企業が持つあらゆるリソースの中で、最も重要なのは、人的資本である。言い換えれば、安定的に利益を出して成長することは容易ではないが、「人材の質、能力、マインドセット」なしでは、不可能に近いのだ。

 最近の模範的な成長企業、エヌビディアを取り上げてみよう。5年間の年平均成長率(CAGR)は、半導体業界平均の9.2%に対し、27%であった。AIチップにおける同社の市場シェア61%(最も近いライバルのインテルは16%)は注目に値する。しかし、競合他社が最もうらやむのは、従業員が働きたいと思う企業として、同社がトップ10入りしていることだろう。2023年には、『フォーチュン』誌の「働きがいのある会社」ランキングで6位、求人サイトであるグラスドアの「2024年に働きたい企業」ランキングで2位にランクインしており、その企業文化は「協調的、チーム志向、誠実、包摂的」と評されている。

 エヌビディアが成長指標での好成績と従業員体験に関する好意的な評価の両方を得ているのは、ただの偶然ではない。従業員の体験が収益と利益をもたらすことは、調査によって明らかにされている。つまり、持続可能な成長の秘訣を解き明かそうとするならば、成長戦略を「企業および従業員」にとってプラスサムゲームとなるように考え直す必要がある。企業が長期的に存続するためには、成長に対してより総合的なアプローチを取らなければならないのだ。

 これこそが、「デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2023」リポートで紹介された「人間のサステナビリティ」の核心である。これは、従業員の心身のウェルビーイングからキャリアスキル、生きがいに至るまで、その人生における価値創造という考え方である。その端緒は個人だが、最終的には個人が出会う人々や属する組織に波及効果をもたらす。人間のサステナビリティに注力することが業績の強化につながることは、複数の研究によって示されている。オックスフォード大学ウェルビーイング研究所による「Workplace Wellbeing and Firm Performance」(職場のウェルビーイングと企業の業績)と題された報告書によれば、「従業員のウェルビーイングと企業の業績の間には強い正の相関がある」。従業員が健康でやりがいを感じていれば、仕事のパフォーマンスは向上し、人間関係は強固になり、変化を起こそうとする意欲も高まるという。

 成長戦略において従業員を考慮しなければ、働きがいの喪失、燃え尽き、革新性の欠如といった昔ながらの症状は現れ続ける。それは、企業の採算、オペレーション、ブランド、文化の健全性をリスクにさらすことになる。「デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024」リポートによると、世界全体では、76%の企業が人間のサステナビリティの重要性を理解しているが、現在それを実現するための明確な計画を立てているのはわずか10%にすぎない。企業としての成功と、従業員にプラスの影響を与える能力との間の相関に気づくだけでは十分ではない。すべての企業の成長戦略において、従業員が優先されていると感じられることが必要である。リーダーは、新たな成長戦略を立てる前に以下の5つを自問し、従業員ひいては自社の成長を妨げていないか確認すべきである。

次の成長戦略を展開する前に問うべき5つの質問

計画に従業員を効果的に加えることができているか

 企業は、財務からオペレーションに至るあらゆるものの計画を優先してきたが、人間に関する計画は、せいぜい人員数を経済動向に応じて増減する程度だった。