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家族は仕事の原動力か、エネルギーを奪う競合か
テニス界のスター、セリーナ・ウィリアムズが2024年春、新たな挑戦を発表した。メイクアップブランド「ウィン・ビューティ」を立ち上げたのだ。第一線を退いて家族との生活を最優先すると決断した時のように、美容に専念するという新たな選択もまた、家族の問題に関わるものだった。セリーナは次のように語っている。
「母親になり、娘のオリンピアの目を通して美しさを知ることができるようになりました。私たちはいつも一緒にメイクをあれこれ試しています。そうした瞬間が、私たち2人が歩む美しさの旅の一部になると思っています(中略)テニスから美容まで、私がさまざまな情熱を持っていることを娘たちに知ってもらいたいのです。彼女たちにも多くの興味を持ち、それを楽しみながらダイナミックなキャリアと人生を歩むことができるのだと学んでほしいですね」
実際、セリーナの長女オリンピアは生まれる前から、母親にベストを尽くすためのモチベーションを与えてきた。全豪オープンで優勝した時、セリーナは妊娠2カ月だった。のちに生まれたばかりの娘へのメッセージを公開した彼女は、娘が関係者席から自分のプレーを見る日を楽しみにしていると強調し、「あなたは、私が知らなかった強さを与えてくれた 」と述べた。
セリーナがテニスコートで娘の存在から力を得たのと同じ年に、筆者らは家族によるモチベーション、つまり、家族が人々に仕事でベストを尽くそうと思わせることについて研究を発表した。
セリーナと舞台はかなり異なるが、米国との国境に近いメキシコ北部のほこりっぽい砂漠地帯で、クーポン券を加工する低賃金の工場で働く従業員97人を観察した。彼らと話をし、のちにアンケートや客観的なパフォーマンス評価指標を用いて体系的に調査したところ、ある興味深いパターンが浮かび上がった。最もパフォーマンスが優れている従業員は、自分のためではなく、家族のために仕事をしていたのだ。
家族は、文化や地域を問わず、多くの人の人生において最も重要なものの一つである。しかし、家族が仕事のモチベーションを高めることができるという考えは見過ごされてきた。それどころか、従来は、家族は働く人の時間やエネルギーといった限りある資源をめぐって、基本的に仕事と競合する存在だと見なされていた。仕事と家族の葛藤に関する多くの研究は、この考え方に基づいて、仕事と家族の領域がいかに相反する要求を生み出し、互いに干渉しているかを示してきた。
しかし、筆者らの研究とメキシコの労働者の体験談は、それとは反対のことを物語っている。家族は主に仕事からエネルギーを奪うという考え方とはまったく対照的に、家族は仕事にエネルギーを与えることができるのだ。これらの発見は、家族を「仕事のモチベーションの重要な源」として再考することを促している。
2017年に筆者らが最初の研究を発表して以来、さらなる研究が筆者らの発見を裏づけ、それらの結果は他の研究でも再現され、拡張されている。現在では、家族が仕事のモチベーションにどのような役割を果たしうるか、そして、筆者らの発見をマネジャーが自分の組織でどのように応用できるかについて、より深く理解できるようになった。