オンライン・ゲームにリーダーシップの未来を見る

 次世代のビジネス環境は、現在のビジネス・リーダーたちにとって、まったくの別世界のものだと言ってもよい。

 たとえば多くの企業では、組織メンバーが変化にいち早く対応できるよう、重要な意思決定が組織のあちこちに分散される。大量の仕事が、いくつものグローバル・チームによって分担される。これらグローバル・チームには、社外の人材も参加するが、チーム・リーダーに彼ら彼女らを管理する権限はない。チームのメンバーはプロジェクトごとに招集され、解散する。地理的に分散したメンバー同士は顔を合わせることはなく、必然的にデジタル環境で協力し合う等々──。

 すでにビジネスは変容しつつあるが、このような近未来において、はたしてリーダーシップはいかなる姿を取るものとなるのか。

 その答えは、〈イブ・オンライン〉〈エバークエスト〉〈ワールド・オブ・ウォークラフト〉など、爆発する宇宙ステーション、グロテスクな怪物、トゲだらけの鎧に身を包んだ戦士が登場するオンライン・ゲームにある。こう申し上げても頭からばかにしないでほしい。

 ファンタジーの設定とはいえ、こうしたオンライン・ゲーム──マッシブリー・マルチプレーヤー・オンライン・ロールプレイング・ゲーム(MMORPG:多人数同時参加型オンラインRPG)という舌を噛みそうなネーミングで呼ばれている──の世界は、先に紹介した次代のビジネス環境と共通するところが多く、現実世界におけるビジネス・リーダーシップの未来の扉を開くものなのだ。

 たしかに、〈ワールド・オブ・ウォークラフト〉で、25人のメンバーからなるギルド(ゲーム内の団体のこと)を率い、6時間にわたってレイド(たとえば敵に挑むなど、ギルド内の小グループによる活動のこと)を指揮し、裏切り者イリダンの要塞を攻略するのと、複雑なグローバル企業を経営するのとはまったくわけが違う。

 まず、最初に張るチップは、ビジネスのほうがちょっと大きい。さりとてMMORPGを単なる遊びと侮るなかれ。最新のMMORPGと伝統的なビデオ・ゲームとでは、大学と寺子屋ほどの違いがある。

 現に最新のMMORPGでは、三次元バーチャル世界、すなわちプレーヤーのだれかが途中で席を離れても、ゲームは続行され、どんどん展開していく世界のなかで、何千人ものプレーヤーがリアルタイムで協力し合い、あるいは競い合うというオンライン社会が拡大しつつある。