科学的根拠から人間関係を解明する

 職場での人間関係を大切にするのは常識であり、だれもが認めるところだ。実際、優れた業績を実現するには、上司と部下が互いの気持ちを通じ合わせる必要がある。また、正真正銘の絆を交わすことで、メンバーたちを鼓舞し、魅了するようなEQ(emotional intelligence:感情的知性)の高いリーダーが評価される。

 巷では、より情緒に訴える対人関係力を育成・支援する産業が急成長中である。エグゼクティブ・コーチを雇うCEOが増えている。さまざまな自己啓発書は組織の階段を上る過程で、どのように人間関係を構築・管理すればよいかを教える。

 これほどまでに職場での人間関係が重視されているにもかかわらず、何がプラスに働くのか、あるいはマイナスに働くのかを科学的に証明した例は驚くほど少ない。

 たとえば、メンターとその弟子の相性は、その人間関係がうまくいくかどうかに左右されることがわかっているとはいえ、その秘密を厳密な方法によって解き明かす努力はほとんどなされていない。

 信頼できるデータや入念な分析がないせいで、人間関係がこじれると高くつく。これを修復する方法がほとんどわかっていないからだ。有能な人事担当役員ですら、いつどのように介入すればよいのか、心もとない。

 しかし、人間関係が悪化した場合、リーダーはどのように対処すべきか、それを効果的にサポートできれば、生産性は大きく改善し、才能ある人材をつなぎ止めるのもたやすくなるはずだ。

 職場内の人間関係に関する研究がほとんどないとしても、家庭内の人間関係を扱う研究が現れ始めている。これは朗報である。なぜなら、職場内の人間関係への対処法は、個人的な人間関係への対処法と密接に関連しているからだ。

 たとえば、家庭で言葉づかいが悪ければ、職場でも同じだろう。それを信じるならば──たいていの心理学者はそう信じている──家庭内の人間関係研究の成果が援用できるかどうかは言うまでもないだろう。