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製品開発ではコミュニケーション不足が致命傷となる
複雑で高度な技術を要する製品を設計する企業には、いずれも苦い経験談がある。フォード・モーターとブリヂストンファイアストンは、フォード〈エクスプローラー〉の車両設計とタイヤ設計のすり合わせを怠ったために、数十億ドルの損失を出した。
同じくエアバスSASでは、〈A380〉機の開発を進めていたが、後になって各部分のワイヤー・ハーネスの設計に互換性がないことが判明した。その結果、開発が予定を大幅に遅れたばかりか、コストも跳ね上がった。同社CEOのグスタフ・フンベルトが辞任したのも、また〈A380〉のプロジェクト・マネジメント体制が大きく変更されたのも、おそらくこのような問題が原因だろう。
これら2つの例や同様の話に顕著なのは、次のような意見が関係者の間で一致していることだ。すなわち「振り返ってみると、製品の部品や機構部品の開発を担当するチーム間のコミュニケーションがもっとうまくいっていれば、このような高くつくミスを避けられた」ということだ。
当然ながら、複雑な製品開発プロジェクトでは、どのような不測の事態にも対応できる万全な計画などありえない。とはいえ我々の経験によれば、設計段階において、各コンポーネント開発チームが交わるべきポイントを明らかにして、いつ、だれと情報交換すべきかを周知徹底できれば、このようなプロジェクトを効果的に管理できることがわかっている。
本稿は、設計段階におけるコミュニケーションの問題を緩和するうえで役に立つだろう。ここでは、ユナイテッド・テクノロジーズの事業部門、プラット・アンド・ホイットニー(P&W)が、民間ジェット機用の大推力エンジン、すなわち〈ボーイング777〉に搭載された〈PW4098〉の開発にどのように取り組んだのかを詳細に調査した結果を踏まえながら、すでに定着しているプロジェクト・マネジメント・ツール、「デザイン・ストラクチャー・マトリックス」(DSM)の新たな活用法を紹介する[注1]。
本稿で紹介する手法を用いれば、必要とされるコミュニケーションが途切れてしまう可能性があるのはどこか、チーム間で技術に関する予定外のコミュニケーションが生じるのはどのような場合かを把握できる。また本稿では、正式にプロジェクト体制が敷かれた際、その内外において生じるプロジェクト・チーム間のコミュニケーションについても分析する。
最後に、分析する過程で判明した、これらコミュニケーションにまつわる問題について、経営陣はどのように対処すべきかについても議論する。
以下で提言することが、設計段階におけるコミュニケーションの問題を解決する決定打であると申し上げるつもりはないが、我々のツールを用いて、数世代にわたって製品開発に取り組めば、その開発プロセスの質が必ず改善されるであろう。