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チームの中に「倍音」を響かせるには
中学時代は吹奏楽部に所属していました。夏のコンクールでは県大会の常連校。顧問の先生の指導は厳しく、練習中は常に空気が張り詰めていました。
私が中学3年生だった、夏休みのある日のこと。間近に迫った県大会に向けて合奏の練習をしていると、先生が突然、演奏を中断させてこう告げました。「君たちがやっているのは合奏ではなく、独奏の集まりでしかない。30分与えるので、君たちなりの合奏とはどういうものなのかを話し合いなさい」
先生が立ち去った体育館で、私たちは輪になって話し合いました。すると部員の一人が、「これまでは自分のパートをうまく吹くことばかり考えていた。次からは、周囲の音をもっと聴きながら演奏してみようと思う」と発言しました。彼女のこの一言が、私を含む部員たちの何かを変えたのです。
30分後に戻ってきた先生は、指揮台に立つと、無言のうちに指揮棒を振り始めました。ただただ没入するような感覚で課題曲を演奏し切った私たちに、先生はこう言いました。「これまでで一番素晴らしかった。気づいたかな、あれが『倍音』だ」
倍音とは、一番強く聞こえる基音の上に重なってかすかに聞こえてくる高い音のこと。それぞれのパートの音が絶妙に振動し合った時に倍音が生まれ、合奏の音色に独特の厚みをもたらしてくれるのです。
さて、今号の特集「チームの力を最大化する」では、現場から経営陣まで、さまざまなレイヤーのチームの力を引き出すための方策を5本の論考とともに探ります。
1本目「チームの成果を最大化する3つの原則」は、マッキンゼー・アンド・カンパニーが活用するチーム力発揮のためのフレームワークを紹介します。
2本目の「リーダーシップチームはなぜ機能不全に陥るのか」では視点を変え、リーダーシップチームが機能不全に陥る3つのパターンを示し、こうした課題を乗り越えてチームとしての連携を高めるための道筋を描きます。
リーダーシップチームがどれだけうまく機能しているかは、そのまま組織の業績に直結します。そこで3本目「経営幹部のチームワークを強化する方法」では、リーダーシップチームに焦点を当てたチームビルディングについて考えます。
4本目の「NFL『史上最高』の選手はチームをいかにして勝利へと導いてきたのか」は、米国のナショナルフットボールリーグ(NFL)において「史上最高」と称され、5回のMBPに輝いた元アメリカンフットボール選手のトム・ブレイディが筆者の一人に名を連ねています。傑出した個人技だけでなく、チームメートから最高のパフォーマンスを引き出すことでも類いまれな能力を発揮してきたブレイディ氏に、チームの力を最大化する7つの原則を学びます。
さらに5本目の「カルビーは『全員活躍』を掲げ、チームプレーを全力で推進する」では、個の力を組織に活かすために評価・報酬制度をデザインし直したカルビーの取り組みについて、同社社長兼CEOの江原信氏にお話を聞きました。
コロナ禍を経たいま、チームの力があらためて問われています。あなたの組織の中にいかに「倍音」を響かせるかを考えるうえで、今号のDHBRが何かしらのヒントになれば幸いです。
(編集長 常盤亜由子)