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協調と協力が時には破滅をもたらす
1994年、リチャード S. ファルド・ジュニアがリーマン・ブラザーズのCEOに就任した時、言い争いの文化も引き継いだ。トレーダーと投資銀行業務の社員たちは、ビジネスをめぐっていがみ合い、もちろんアイデアの共有など起こりえず、もっぱら会社の利益より自分の利益を第一に考えていた。
2007年、ペンシルバニア大学ウォートン・スクールが運営するサイト「ナレッジ@ウォートン」で、ファルドはこう語っている。「新生リーマン・ブラザーズ[注1]は悪い手本の最たるものでした。私の仕事、私の部下、私の報酬──と、万事自己中心的でした」
しかし90年代も半ばになると、金融業界はクロス・セルに軸足を置いた販売体制に移行し、チームワークを毛嫌いする態度もすっかり影を潜めていた。ファルドは、結束と協働を会社の優先課題とし、社員の報奨制度と組み合わせて、これを推し進めた。
こうしてリーマンは、2008年時点で──この年の秋、残念ながら経営破綻するが──ウォールストリートのなかで最強のチームワークと忠誠心を誇る企業の一社に数えられていた。『フォーチュン』誌2006年4月号には、次のように記されている。
「リーマンは、ファルドのおかげで、似つかわしくないくらい、ウォールストリートのなかで最も協調的な企業に変わった」
しかし、社内の不協和音を一掃する取り組みはかえって裏目に出た。リーマンの取締役会と経営陣は、何事にもすんなり同意するようになった。また、すっかり従順になり、彼らのほうがよくわかっている場合でも、素直に受け入れた。
さらに、2007年と2008年には、同社が危機に瀕していることを示す予兆がいくつも表れたが、それに気づいた一部の社員たちは、この重大な問題を上申するのをためらった。
元社員たちの証言によれば、忠誠心とは、すなわちファルドへの忠誠心にほかならなかった。そのような忠誠心ゆえに、リーマン経営陣は見て見ぬふりをした。だれも目の前の平和をかき乱したくなかったのだ。