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周囲の環境を過剰に警戒し、裏目に出ていないか
期待の星、リンのプレゼンテーションは完璧だ──質疑応答に入るまでは。質疑に入るや、彼女は自信を失い、固まる。専門的な知識や能力には長けているが、この瞬間の予測不能さと、人から拒絶されるようなことを言ってしまうことへの恐怖で、声や言葉が思うように出ないのだ。そのため、意思決定者に、まだ大きな仕事は無理ではないかと見られてしまう。
その対極にいるのがジョシュだ。ジョシュは、成功すればキャリアアップが見込める、高リスクのプロジェクトを率いている。だが彼は、フィードバックや質問に対して防衛的な態度を取ってしまう。その場の誰よりも賢く見られたいという欲求に駆られ、自分の考えを一歩も譲らず、融通が利かなくなったりする。メンバーたちは疎外されたように感じている。ジョシュは敏腕として評価されているが、周囲を巻き込むことができず、昇進を逃してしまうかもしれない。
2人のリーダーの問題は表面的には異なるように見えても、その反応パターンは根底に共通するものがある。2人の行動は、非常にストレスの多い、予測不能な環境に対処する方法として発現し、プレッシャーがかかると自然に出るように神経系に刻まれていた。筆者のコーチングでは、このような人々を「スキャナー」と分類している。周囲の環境を過剰に警戒し、脅威に(現実のものか想像したものかにかかわらず)素早く反応するが、それが裏目に出ることが多い。協力すべき時に「闘争」し(ジョシュ)、主張すべき時に「凍りつく」か「逃走」する(リン)。どちらのリーダーも、振り返ると自分の対応が機能していないことが明確に理解できたが、その場では緊張のせいで、刻み込まれたパターンにほとんど自動的に戻ってしまうと打ち明けた。
仕事にスキャニングが影響しているという人は、その反応パターンが過警戒(ハイパービジランス)に起因していないか調べ、コントロール方法を身につけることが助けになる。
過警戒とは何か
クリーブランド・クリニックの臨床心理士スーザン・アルバースによると、過警戒とは、意識の高揚状態を指す。「危険の兆候がないか環境をスキャニングして自分を守ろうとする脳の働きです」。これは人間の正常な生存メカニズムであるが、一部の人にとっては、身の安全を守る脳の部位(扁桃体)が暴走して、完全に安全な時でも、身構えているように感じる。そのため、「過警戒の人は、リラックスすることができません。常に戸惑いを感じたり、何か間違ったことを言ったりしたりしているのではないかと不安になるのです」とアルバースは言う。
過警戒のトリガー(反応を引き起こす刺激)には、身体や精神、心理の状態、あるいは幼少期のトラウマ、人種差別、戦争などの社会的、家庭的状況がある。これらの出来事は長期的に刻み込まれ、環境にある「脅威」への反応を形づくる。ストレッサーからのこの要求がその人の対処能力を超えた場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に発展することもある。
ジョシュの過警戒は、幼少期の家庭環境に起因していた。「家族の亡霊」が職場での対人反応に影響を与えていたのだ。心の通わない両親の下で育った彼は、両親に認められるために、自分がいかに賢いかを両親に証明しようとしていた。リンの場合は、両親が異文化の中で目立たぬよう、人目に触れぬように生きていたという。状況を読み間違えて注目や嘲笑を浴びるより、黙っているほうが安全だったのだ。
習慣的なパターンから抜け出し、効果的なリーダーやチームメートになるためには、過警戒をコントロールすることがカギとなる。安全にトリガーや反応に気づく確実な方法として、専門家の助けを借りるべき人もいる。だが、日常的にできることもある。ストレスの多い状況下でも、自己統制の取れたリーダーになれる方法がある。スキャナーが対処に苦しみ、周囲に理解されにくい自己妨害的な行動を防ぐ方法は、以下の通りである。