在宅勤務はむしろ従業員同士の絆を強くする
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サマリー:コロナ禍で導入されたリモートワークが縮小され、多くの企業が出社勤務再開を呼びかけている。その理由として、リーダーたちは対面のコラボレーションや信頼関係の構築が重要だと主張する。しかし、研究によるとリモ... もっと見るートワークでも生産性は低下せず、むしろ従業員の満足度や定着率は向上する。また、ビデオ通話によるリモート交流は、同僚をより人間的で信頼できる存在として認識させ、協力関係にもプラスに働くことが示された。リーダーやマネジャーは、出社勤務のメリットとコストを科学的根拠に基づき慎重に検討する必要がある。 閉じる

リモートコミュニケーションは本当に対面より質が劣るのか

 コロナ禍の時、導入されたリモートワークがどんどん縮小されている。スターバックスやウォルマート、グーグル、JPモルガン・チェース、アマゾン・ドットコムなどの企業が、出社勤務の再開(RTO)を呼びかけてきた。なかには週5日出社を義務づける企業もある。

 この時リーダーは、対面でしか実現できないコラボレーションを可能にするため、出社を義務づけると説明することが多い。元スターバックスCEOのハワード・シュルツは、週3日以上の出社を呼びかけた時、この仕事は「チームスのビデオ通話や、予定されたミーティングではできないような思考、大胆なコラボレーション、そして勇気ある会話」が必要とされるからだと説明した。

 こうした説明の背景には、コミュニケーション学と社会心理学における強力な証拠がある。すなわちリモートコミュニケーションの質は対面コミュニケーションの質よりも劣るというのだ。また、経営面に関する一部調査によると、主にリモートで仕事をする従業員は、同僚との信頼関係や親密な関係が少ない傾向がある。

 だが、出社勤務を再開させるという決断は単純なものではない。別の調査では、リモートワークでも生産性と成果は低下しないことが示されている(コロナ禍の時、多くの従業員が実際に気づいたことだ)。さらに、リモートワークやハイブリッドワークが可能な環境のほうが従業員は幸せで、その会社を辞める可能性も低くなる。

 筆者らは経営学の研究者として、出社勤務を義務化する動きに困惑してきた。リーダーたちは、仕事における強固な人間関係と組織の成功には対面でのコラボレーションが不可欠だと考えているようだが、それならリモートワークでも生産性は低下せず、むしろ組織運営に追加的な価値をもたらすという研究結果をどのように考えればよいのか。そこで筆者らは、リモートコミュニケーションは同僚との協力関係にマイナスになるという、広く受け入れられている前提を検証してみることにした。

 具体的には、ビデオ通話で垣間見える同僚の仕事以外の側面が、人間関係にどのような影響を与えるかを、アーカイブ研究、フィールド研究、実験的研究をもとに検証するというものだ(その概要は最近、米経営学会誌に掲載された)。その結果、このようなバーチャルな交流は、同僚のことを、より偽りがなく、人間的で、信頼できる人間だと認識させる作用があることがわかった。個人的な絆を育む上でも、仕事で協力関係を築くうえでもプラスになる資質だ。この研究は、リモートワークが従業員同士の関係にどのような影響を与えるかについて、よりバランスのとれた見解をもたらしてくれる。そこでこの発見をもとに、出社勤務再開の潜在的なメリットとコストに悩む経営者に、研究による裏づけのある提案をしたい。

在宅勤務は同僚の世界を垣間見る機会になる

 リモートワークと同僚との関係に関連する研究の多くは、リモートワークにより同僚との距離が大きくなることを前提としているが、筆者らは別の可能性を検証した。すなわち、リモートワークは同僚の仕事以外の側面をこれまでにない形で知ることを可能にするため、むしろお互いの距離が近く感じられるのではないか、ということだ。

 そこで、同僚の仕事以外の側面を知ることが、なぜ、どのように人間関係にメリットをもたらすのかに関連する先行研究(筆者らによるものを含む)に基づき、在宅勤務は3つの重要な形で同僚がお互いを知る可能性を高めるという仮説を立てた。