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ビル・ゲイツが強調するスティーブ・バルマー採用の効果
マイクロソフトの共同創設者ビル・ゲイツは1993年、スミソニアン研究所から創業当初についてインタビューを受けた際、会社の成長におけるソフトウェアエンジニアリングの役割について強調することはなかった。その代わりに、決定的な影響を与えたのは、ある重要な人事決定だったと彼は語った。それは、ゲイツの旧友で控えめな性格のスティーブ・バルマーを採用したことだ。
「スティーブが加わってから、私は彼と多くの時間を過ごした。ビジネス面が重要だったからだ」とゲイツは述べた。「スティーブが人々と交流し、彼らが何を考えているのかを知ることで、私は大きな恩恵を受けた」
バルマーの加入は、マイクロソフトを一変させた。なぜか。彼が、強力ながらもややオタク的なエンジニアリング中心の会社に、新しいビジネスアイデアとスキルを大量にもたらしたからだ。バルマーが加わったことで、マイクロソフトでは「足し算的採用」で従業員の能力向上を図るのではなく、会社全体のエネルギーを、原子炉が臨界点に達するような爆発的な成長レベルにまで高める「掛け算的採用」が実現した。
マイクロソフトで起きたのは、バルマーが組織の「タレントデンシティ」(能力密度)を高めたことだと考えられる。彼の新しいスキルセットとエネルギーが、全員の生産性を向上させたのだ。
タレントデンシティは、従来のベルカーブ(正規分布曲線)の概念に異議を唱えるものといえる。ベルカーブの概念は、企業の採用と報酬の考え方において長年支配的だが、ある程度の内在的な凡庸さを受け入れることを促す可能性がある。タレントデンシティのアプローチは、すべての採用や昇進の決定がチーム全体の能力を高める「フォースマルチプライヤー」であることに重点を置いている。これは、以下の2つの基本原則に基づいている。
1. 適切なサポートとトレーニングがあれば、誰もがより多くのことを達成できる。
2. 特定の個人は「ハイパフォーマー」であり、それに応じてインセンティブを与えられ、また報酬を与えられるべきである。
理想的な世界では、常に10倍の成果を出す人材を雇うだろう。しかし実際には、人事プロセスによってそれが妨げられることが多い。第1に、ベルカーブでの評価は、個人のパフォーマンスにかかわらずトップパフォーマーとして評価される従業員の割合を制限するため、ハイパフォーマーの入社を阻害することがある。これは、NBA(全米バスケットボール協会)のゴールデンステート・ウォリアーズのコーチであるスティーブ・カーが、オールスターチームに入ることができるのはステファン・カリーだけだと選手たちに告げているようなものだ。注目されるチャンスがないのに、なぜ努力しなければならないのか。
第2に、マネジャーはハイパフォーマーの存在に脅威を感じ、そうした才能を見落としたり、無視したりする可能性がある。人事の世界では、5つ星マネジャーは5つ星の人材を雇い、4つ星マネジャーは3つ星の人材を雇うといわれる。つまり、自分の地位に自信がないマネジャーにとって、10倍の成果を上げる人材の採用は、してはならないことなのだ。