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優秀な人材を退職に追い込む「アンチマタリング」
エイデンはがん看護専門の看護師で、能力を認められて2年でマネジャーになった。彼のチームは、がん診断とそれに続く治療という大きな試練のさなかにある患者を支えていた。エイデンは休暇をほとんど取らず、チームの看護師は患者満足度の複数項目で院内最高スコアを獲得し、彼自身も同僚からノミネートされる賞をいくつも受賞した。
ところが、勤続5年を前に、エイデンは病院を辞めた。「自分でなくてもよいと思いました。自分がもたらしている価値は、誰でももたらすことができると感じたのです」と彼は筆者に語った。リーダーたちに意見を求められず、マネジャーと有意義な会話をした記憶もない。看護の質を高める提案を何度しても、無反応だった。「まるで部屋の中で叫んでいるのに、誰にも聞こえていないような気分でした。疲れ果てました」
エイデンが感じたことを表す言葉がある。心理学者はそれを 「アンチマタリング」と呼んでいる。「見られていない、聞かれていない、価値を認められていない」と感じることから生じる、自分が重要な存在だと感じられないことである。アンチマタリングを経験すると、人は引きこもったり、元気をなくしたり、仕事を辞めたりする。
高い能力を持つ人材は、退職理由として、一般的に昇給や対外的な活躍の場がないことを挙げる。しかし、エイデンのようなハイパフォーマーにおいては、アンチマタリングが離職の隠れた要因になる。しかし、予防可能な要因でもある。給与を上げたり、他の有望人材と競わせたりするのと違い、相手がどのように重要であるかを伝えるのは、リーダーのやる気一つだ。
予防可能なハイパフォーマーの退職理由
741社、20万人の従業員を対象に行われたある調査において、報酬はハイパフォーマーが退職する理由として最下位だった。代わりに上位に挙がったのは、やりがい、能力開発、リーダーとの関係である。
特にマネジャーとの関係は、人がそこで働き続けるかどうかを大きく左右するようだ。たとえば、ギャラップが過去12カ月間に自主退職した従業員700人を調査したところ、42%が上司の行動次第では辞めていなかったと回答した。上司が何をすれば辞めなかったかという質問に対しては、自分の健康や幸福への投資、ポジティブな交流、自分にしかできない貢献に対する有意義な(先につながる)評価と回答した。
ある従業員は調査員に対し、上司が退職を防ぐためにできることはただ一つ、「自分が重要な存在だと感じさせてくれること」だと語ってくれた。
ハイパフォーマーに重要な存在であることを示す方法
「マタリング」とは、他者から価値を認められていると感じたり、自分が生み出している価値を定期的に示されたりすることによって、自分が重要な存在であると感じられることである。研究によれば、仕事で自分を重要な存在だと感じている人は、仕事への満足度が高く、昇進しやすく、辞めにくい。拙著The Power of Mattering(未訳)のために行った調査によれば、マタリングは、表彰や社内制度、特典などではなく、リーダーとの日常的なやり取りを通じて感じられることがわかった。従業員は、「気づかれ、肯定され、必要とされる」という3通りの方法でマタリングを感じる傾向がある。従業員に重要な存在であることを示す方法は、以下の通りである。