DEIに関する法的リスクを回避するための要諦
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サマリー:DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の推進は、訴訟やSNSキャンペーン、反DEI運動、大統領令の影響により、これまで以上に困難になっている。多くの組織が法的精査を進めているが、適切な伝え方も... もっと見る同様に重要だ。筆者らは企業やNPOとの協働を通じ、DEIの効果的な伝え方と組織全体への浸透戦略という2つの重要課題を特定した。 閉じる

DEI戦略をいかに策定するか

 DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)に異議を唱える訴訟SNS上でのキャンペーン株主による反DEI運動、そしてトランプ米大統領が発する大統領令……。一連の状況を受けて、DEIの推進が数年前と比べていちだんと困難になっているのは疑いようがない。

 多くの組織のリーダーは現在、自社のDEIプログラムを法的に精査する必要性を認識している。ただし、法的に問題のない方針を整備することは、必要な取り組みの一部にすぎない。それと同じくらい重要なのが、その方針をいかにして伝えるかという点だ。

 企業や法律事務所、NPOとの幅広い協働を通して、筆者らはDEIについてのコミュニケーションの2つの重要課題、DEIの効果的な伝え方、その伝え方を組織全体に浸透させるための戦略を特定した。

DEI関連のコミュニケーションの2つの課題

 1つ目の課題は「語りすぎること」だ。

 反DEI訴訟戦略の専門家エドワード・ブルムは、自社のリサーチャーたちが「何百もの企業のウェブサイトを精査」し、連邦法の反差別法に違反する可能性のあるプログラムなど、違法なDEIプログラムの証拠を探していると述べている。複数の州の司法長官も、ウェブサイトやプレスリリースなどの公開資料を手掛かりに違法性を判断するとしている。標的にされたくないのであれば、組織はどのような表現を使うと、思いがけず違法行為への関与を示唆してしまうのか、あるいはそうした誤解を与えてしまうのかを学ぶ必要がある。

 2つ目の課題は、「語らなさすぎる」ことだ。多くのリーダーや従業員が、「DEI」という略語を口にしたり、エクイティを提唱したり、組織のダイバーシティ推進の取り組みを強調するだけで法的リスクが生じるのではないかと恐れており、その結果、不必要なまでに黙り込んでいる。

 しかし、そうした沈黙は、従業員や消費者からの組織への信頼を傷つけるリスクをはらんでいる。さらに、反DEI勢力はその空白を狙って、「DEIはすでに終わった」といった誤解を広めようと躍起になっている。

 筆者らは、こうした両極の間に位置する適切な道をいかに進むか、その指針を、リーダーや従業員に提供したいと考えている。

DEI関連のコミュニケーションが法的リスクを伴う場面

 DEI関連の発信によって法的リスクが生じるのは、組織が「3つのP」に該当する行為──「保護対象の集団」(protected group)に対して「明確な利益」(palpable benefits)に関する「優先的な扱い」(preference)の提供──を行っていると受け取られる場合である。

 具体例を見ていこう。以下に紹介する表現がリスクを生む理由を理解することで、リーダーはコミュニケーション上の罠を回避できるようになる。