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AIコーチングでリーダーとしての能力を磨く
上司がコーチのように部下を指導するアプローチは、管理職が従業員の目標達成や業績向上を支援する上で非常に有効な方法である。優れたリーダー兼コーチの特徴は、よい質問をし、対立を解消し、有意義なフィードバックを与える能力にあり、コミュニケーション力に長けている。しかし、すべての管理職が効果的なコーチやコミュニケーターになるための練習法を知っているわけではない。
筆者らは、これまで数多くの管理職のコーチング能力向上に携わってきた経験から、このスキルを磨くには、その管理職が他者と対話しているところを人間のトレーナーが観察し、フィードバックを与える方法がよいと考えている。そして、人間と「対話」する大規模言語モデル(LLM)の能力が向上したことから、筆者らは「LLMを搭載したツールは、管理職のコーチング能力を磨くスパーリングパートナーにならないだろうか」と考えた。
この仮説を検証するために、人間のコーチのように管理職にフィードバックを提供するGPT-4搭載ツールを作成した。このツールをさまざまな業界のグローバルリーダー167人を対象にテストした。その結果、AIコーチングが基本的なリーダーシップ能力を磨く効率的で利用しやすい有効な方法であることがわかった。それにAIツールはほぼ誰もが利用できる。
AIを活用して(よりよい対話をするために)よりよい対話を行う2つの方法
管理職がコミュニケーションスキルやコーチングスキルを向上させるために、こうしたツールと対話する方法は主に2つある。アドバイスを求めるか、評価を求めるかである。
前者の場合、AIをリーダーシップコーチと見なして、難しい会話の準備や分析の際にAIに支援を求めることができる。また、ロールプレーをさせて、返答によって反応がどう変化するかをいろいろと試すこともできる。
たとえばある管理職が、迅速な対応が必要な状況で、チームメンバーへのフォローアップに不安を感じているとしよう。まず役立つのは、その状況を250語程度の短い文章にすることだ。この作業だけでも、考えを整理するちょっとした時間ができる。書いた文章をツールに入力するか話して状況を説明し、コーチとして振る舞うよう求める。それには、「コーチとしてどのようなアドバイスがあるか」や「この状況に生産的に対処するにはどうすればよいか」といったオープンな質問をする。あるいは、もっと具体的に、「この場合、どのコミュニケーションスタイルを勧めるか」や「支援的だが簡潔なコミュニケーションスタイルを取る方法は」「どのようにフォローアップすべきだろうか」と質問してもよい。質問が具体的であればあるほど、有益な回答が得られる可能性が高くなる。
後者の方法では、AIツールに相手との会話を聞かせる。そして会話の後に、ツールにコミュニケーションスタイルを評価させる。この場合も、質問が具体的であればあるほど、よい結果が得られる。具体的な例を挙げるように求めると、驚くほど有益な指摘が得られることもある。同様に、管理職の言葉の選択が適切であったかどうかを尋ねたり、「生産的な流れだったか評価する」よう求めたりすると、会話の最初から最後までのツールのきめ細かな注意を存分に活用することができる。AIツールが特定のフレームワークを認識するように調整されている場合、その状況に「適したコミュニケーションスタイルの選択」を尋ねてもよいだろう。
コーチとして成長するためにどのようにAIを活用するか
筆者らの実験では、AIに実際の会話を聞かせ、評価させた。これは、管理職が自身のコーチングスタイルをより理解し、向上させるのに役立つと考えたからだ。使用したのは、既存の複数のコーチング対話でファインチューニング(再訓練して最適化)したGPT-4である。コーチング対話は、ジョン・ヘロンのコーチングスタイルの枠組みに従って筆者らが分析したものである。ヘロンのフレームワークでは、対話を6つのタイプ、すなわち指示型(アドバイスや解決策の提案)、情報提供型(知識や洞察の共有)、触媒型(自己発見や問題解決の促進)、浄化作用型(感情状態の打診)、支援型(精神的な励まし)、直面型(思い込みや行動への疑問の投げかけ)に分類している。
筆者らは、管理職のキャリアにおける実際の状況を参考に、さまざまな場面で管理職に互いにコーチングを行わせ、ツールを使用した。ツールにこれらの対話を聞かせたのだ。セッション終了後、コーチ役を務めた管理職は、自身のコーチングアプローチについて、以下のような具体的な質問をツールに行った。
・私のコーチングスタイルは、ヘロンのフレームワークのどれに当てはまるか。
・私が最もよく使うスタイルはどれか。それは効果的か。
・私はコーチとしてどの程度効果的に行動できたか。
・対話の中で特にうまくいったことは何か。
・私の質問の仕方にどのようなパターンが見られるか。
・どうすればコーチングスキルを向上できるか。
・私は対話を支配する傾向があるか。その場合、どのようにそうしているのか。
・コーチングスタイルについて、私が気づいていないと思うことは何か。