日本企業は「高機能・低価格」戦略からどう脱却すべきか
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サマリー:第2次世界大戦後から高度経済成長期にかけて、多くの日本企業が追求した他社との差別化戦略は、「高機能・低価格」だった。そしてこの成功体験は、いまなお日本企業の思考を縛っている。しかし、こうした戦略が機能... もっと見るした時代の前提は、多くの産業においてすでに過去のものである。企業は発想を転換し、「どう高く売るか」を考えなければならない。 高付加価値化のために重要なカギとなるのが、企業の歴史を活用した「ナラティブ」をつくることである。本稿では、「歴史的ナラティブ」がどのように高付加価値経営につながるのか、理論と具体例を交えながら説明する。 閉じる

日本企業を縛る過去の成功体験

 日本企業は「高機能・低価格」戦略の思考に囚われていないだろうか。

 企業経営の本質的な活動の一つは、他社の製品やサービスとは異なる、価値ある違いを生み出し、それを社会に提供し続けることだ。第2次世界大戦後から高度経済成長期にかけて、多くの日本企業が生み出した「違い」は、高機能と低価格だった。

 そして日本企業は、かつての輝きを失い、変革が求められる時代に突入しても、高機能・低価格の戦略を基本的に維持してきた。その背景には、1990年代半ばから続いたデフレ経済の影響があることは言うまでもないが、企業側の要因も無視できない。

 たとえば製造業では、かつては部品間の相互依存性が高く、熟練の技術者による調整が不可欠な製品が主流だった。そこでは、経済成長を前提とした長期安定雇用という条件の下、技術者が「現場力」や「職人技」を磨き上げた結果、高品質の製品を低価格で提供できた。また、大量生産による「規模の経済」や、コア技術を活かした製品多角化による「範囲の経済」が、生産コストを削減し、価格競争力を支えていた※1

 こうした過去の成功体験が経路依存的に作用し、日本企業の思考を縛ってきた可能性がある。たしかに理論上、高機能・低価格の重要性は変わらない。また実際に、この路線で成功し続けている日本企業もある。しかし、かつてのように、日本企業が横並びでこの道を突き進むことは難しくなっている。こうした戦略が機能した時代の前提は、多くの産業において、すでに過去のものだ。市場環境が変化した現在においても、従来の成功モデルに固執し続けることが、日本企業の競争力低下の一因となっているのかもしれない。

 現在では、幅広い領域で技術の標準化とモジュール化が進み、かつてのような職人技で機能を高める製造業の優位性が薄れてきた。また、低価格を維持するための主たる手段も変化してきた。かつては「規模の経済」や「範囲の経済」といった論理も見られたが、次第に、正社員の賃金抑制や安価な非正規労働者の活用、下請け企業への負担の押しつけなどの比重が高まってきた。また輸出製品の価格競争力に関しては、円安という外部要因によって支えられている部分が大きい。

 こうした状況を打破するためには、発想を転換し、「どう高く売るか」を考えなければならない。 そのためには、製品価値を「機能」面だけで評価するのではなく、企業自体や製品が持つ「意味」面の価値を加えて、市場で適正な価格を設定することが重要となる。