生成AIで参入障壁が高まる職業、低くなる職業
HBR Staff; Henrik Sorensen/Getty Images; AI
サマリー:生成AIの普及により、経験豊富な労働者のスキルは強化される一方で、経験の浅い労働者の参入を狭める職業が生まれている。特にエントリーレベルの職種は自動化の影響を受けやすく、人材の流動性や育成パイプラインに... もっと見る課題が生じている。本稿では、生成AIが職業構造や組織設計、人材戦略に与える影響を分析し、企業が直面する課題と対応策を解説する。 閉じる

生成AIで労働力の流動性は活性化するのか、それとも制限されるのか

 生成AIの導入によって、自動化される仕事もあれば、労働者の能力が強化される仕事もあり、雇用主が採用候補者を評価する際に検討するスキルや経験、資格は急速に変化するだろう。そうした変化に対して、悲観論者は人材の流動性を制限すると主張し、楽観論者は技術的スキル、つまり「ハード」スキルに関連する職務要件が減って流動性はむしろ高まると反論するだろう。

 どちらが正しいのだろうか。

 実際には、AIによって道が開かれる労働者もいれば、閉ざされる労働者もいる。バーニング・グラス研究所とハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の共同研究「仕事の未来を管理するプロジェクト」の中で、米国の労働者の約12%が、生成AIがエントリーレベルの業務のかなりの割合を自動化する可能性が高い職業に現在就いていることがわかった。このことから、必然的に、エントリーレベルの採用は減るだろう。

 その変化はすでに始まっている。マイクロソフトの生成AIを搭載した検索エンジン型チャットボットCopilot(コパイロット)の登場により、ソフトウェアエンジニアリングのエントリーレベルの採用はほぼ停滞している。一方で、労働者の約19%が「現在は技術的知識が必要とされている業務で、今後その技術を生成AIが引き受ける可能性が高い分野」に従事している。したがって、ハードスキルを持たない人々にもより多くの機会が開かれるだろう。

 筆者たちの分析によると、今後数年の間に5000万の仕事の大部分が、何らかの形で影響を受けることになりそうだ。これだけの規模の変化は、企業に組織構造の再構築と人材管理戦略の抜本的な見直しを迫るだろう。その影響は、業界だけでなく個人や社会まで広い範囲に及ぶ。機敏に対応する企業は、生成AIが生産性を向上する可能性をうまく使いながら人材不足が招くリスクを軽減するという点で、最も有利な立場を取ることになるだろう。

 経験豊富な労働者の能力を高める一方で、経験の浅い労働者の参入を狭めるというパターンに、最も当てはまりそうな職業にはどのようなものがあるだろうか。その答えを探るために、新しい仕事を始めた人なら誰でも馴染みのある学習曲線(ラーニングカーブ)に注目した。

収入曲線と学習曲線

 これは単純な概念だが、その意味は深い。ライドシェアの運転手のように、業務に慣れるのにそれほど時間がかからない職業もある。しかし、営業やソフトウェアエンジニアリングなど幅広い職業において、初心者と経験豊富な現職者の間には大きな差が存在する。

 学習曲線は、それぞれの職業で労働者の生産性がピークに到達するまでの所要時間の違いを捉えている。ある職業において、経験の長い労働者の生産性がエントリーレベルの労働者を大きく上回る場合、学習曲線は急勾配になる。そのような曲線を描く多くの職業において、筆者たちの分析では、エントリーレベルのスキルは生成AIによる自動化の影響をより受けやすいと見られる。このことは、エントリーレベルの職種への参入障壁が高まる可能性を示唆している。

 では、生成AIが専門性の障壁を引き上げる職業にはどのようなものがあるだろうか。

 その答えを探り、学習による差が市場でどのように評価されるかを測るために、さまざまな職業の収入曲線を分析した(収入曲線はその分野の専門性の習得にかかる時間を反映している場合が多く、時間とともに生産性が向上することを示す指標になる)。 この分析を通じて、経験を積んだ労働者ほど著しく高い報酬を得ている職業が特定され、習得した専門知識に大きな付加価値がつくことが示唆された。さらに、数百万件のオンライン求人広告を含む米国の2年分の求人広告データをもとに、それぞれの職業で経験の浅い労働者と経験豊富な労働者のスキルプロファイルがどのように異なるかを評価した。