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「ラテラル採用」のジレンマ
「スター」と見なされる人材の引き抜きに関する先行研究は、彼らを採用することが困難であるだけでなく、多くの場合で逆効果であることを示している。新たに採用されたスター人材は、自身の卓越したパフォーマンスを再現することに苦慮する場合が多い。さらに、イノベーションを妨げたり、既存従業員のパフォーマンスを低下させたりすることによって、新たな雇用主に悪影響を及ぼす可能性もある。採用プロセスにかかる費用、時間、労力を踏まえると、これは意外であると同時に憂慮すべき事態である。
従業員の知識とスキルを主要な資産かつ競争優位の源泉とする組織は、いまなおこのジレンマに苦しんでいる。そのため、彼らは「最も優秀な人材」を採用するという戦略的必要性に迫られている。たとえ競合他社から引き抜く場合でも、むしろその場合こそ、こうしたジレンマに苦悩する。
このような採用手法は「ラテラル採用」と呼ばれ、大手法律事務所のような知識集約型組織は、成長戦略の一環としてこの手法への依存を強めている。最近の業界報告によれば、米国の大手法人法律事務所上位200社では、パートナーレベルのラテラル採用が年間最大3000件に達するという。これは1社当たり年間平均15件に相当する。
ここで、非常に興味深い問いが浮かび上がる。スター人材の採用が成果につながりにくいことは、学術的文献および実務の双方で認識されているにもかかわらず、なぜ組織はこの慣行を続けているのか。
米国経営学会(AOM)など複数のカンファレンスで発表された筆者の最近のワーキングペーパーは、英国法曹界におけるスター人材のラテラル採用に関するこの疑問に対して一つの答えを示している。筆者は、2000年から2017年までの17年間にわたり、英国に拠点を置く100以上の法人向け法律事務所に勤務する2700人のスター弁護士を追跡し、スターを採用した業務部門が、採用しなかった類似の業務部門と比較して、採用後1年間においてより高いパフォーマンスを示したかどうかを分析した。
「スター」の定義は、英国の法律専門家年鑑(UK Chambers Legal Directory)に掲載されている弁護士とした。そこに掲載されることは、その年において当該専門分野で卓越した実績を挙げた少数の実務家の一人として、同業者およびクライアントから認められていることを意味する。本研究では、各業務分野が Chambers において付与される格付けをもって、そのパフォーマンスを定義した。また、本研究で対象とした法律事務所の主要な意思決定者(経営陣、採用担当者、そしてスター弁護士自身など)へのインタビューを通じて、統計データの分析を補完した。
本研究の結果、スター弁護士を採用した業務分野は、採用しなかった分野と比べて、翌年のパフォーマンスが平均して最大10%低下していることが示された。しかし、結果をさらに詳しく分析すると、スター人材の採用が効果を上げている事例も存在し、より多面的で複雑な実態が浮かび上がってきた。
スター採用の主な問題点
スター人材の採用には、いくつかの批判的な意見がある。第1に、個人のパフォーマンスが他の環境でも再現可能かという「移転可能性」の問題である。研究によれば、スター人材の個人パフォーマンスは、組織やチームに関連する要因に大きく依存している。これらの要因は、スター本人の知識やスキルほど容易には移転しない。優れたパフォーマンスはしばしば集団的努力の産物であり、スター本人だけでなく、そのチーム内および広範な組織の同僚、事務・支援スタッフ、さらにはクライアントを含む多くの関係者の貢献と支援に依存している。