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海外における日本のイメージの変容
前回、無印良品の事例をもとに、日本という土地を活かしたブランドのナラティブを通じて新しい価値を生み出せる可能性について紹介した。従来、メイド・イン・ジャパンといえば、高品質で技術力があるという点で評価されてきた。しかし近年、日本の海外におけるイメージは「技術の国」から「文化の国」へと変わりつつある。これは、経済的影響力の相対的低下と、アニメや日本食をはじめとしたソフトパワーの浸透が背景にあると考えられる。こうした変化に対応して、新たにメイド・イン・ジャパンを再定義し、その意味的価値を海外に向けて広げていく余地があるのではないだろうか。
まず、海外における日本のイメージがどのように変化してきたのかを押さえておこう。筆者は、経済産業省クールジャパン政策課と共同で、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ベルリン、シンガポールの5都市において、「日本についてどのようなイメージを想起するか」を尋ねるグローバル定性調査を実施した。その結果、日本に対するイメージとして次のような傾向が明らかになった。
かつての典型的な日本文化のイメージは、「フジヤマ」「ゲイシャ」「サムライ」といった伝統的なものが中心だった。しかし現在では、ネットフリックスやクランチロールなどのストリーミングサービスを通じてアニメが世界中に浸透し、それを入り口として日本の生活文化や価値観に対する関心が高まっている。
特に欧米諸国において、日本の生活文化やその背後にある思想が、過度な競争やストレスの多い社会から距離を取る「心の逃げ場」として注目されている。日本文化に見られる「静けさ」や「余白」、「自然との調和」といった価値観が、心の落ち着きをもたらすライフスタイルの象徴として受け止められているのだ。
また、日本食の健康的かつサステナブルな側面への認知が急速に高まったことで、世界中の人々が日常的に日本文化に触れる機会が増えている。こうした文化的関心の高まりに円安も追い風となり、日本を実際に訪れる人々も増加している。
その中で、工芸品に象徴されるクラフトマンシップや、自然と共生するスピリチュアリティといった、日本文化の奥深さにも関心が広がり、特に、収入の高いグローバルエリート層の間で、こうした日本文化をみずから体験し、深く理解しようとする動きが加速している。

図表1