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経営資源、ケイパビリティとは
リソース・ベースト・ビューにおいて経営資源(resources)とは、企業が戦略の立案や実行に用いることができる、自社の管理下にある有形・無形の資源を意味する。経営資源の例としては、工場(有形資源)、製品(有形資源)、顧客からの評判(無形資源)、管理層のチームワーク(無形資源)などがある。グーグルを例に考えれば、有形資源はグーグルのウェブサイトやそれに関連するソフトウエア商品であり、無形資源は検索エンジン業界におけるブランドネームや評判である。
ケイパビリティ(capabilities、能力)は経営資源の一種であり、自社の管理下にある他の経営資源の潜在力を最大限活用するための有形・無形の資源と定義される。すなわち、ケイパビリティ単独では企業は戦略を策定し実行することはできない。ケイパビリティとは、企業がその他の経営資源を戦略の起案と実行に用いることを可能にする資源である。
ケイパビリティの例としては、企業のマーケティング能力や、マネジャー間のチームワークや協力関係が挙げられる。グーグルの場合であれば、検索エンジン業界での支配的地位につながったソフトウエア開発者とマーケティング部員の協力関係がケイパビリティの例である。
経営資源やケイパビリティは、4つの大きなカテゴリーに分類できる。財務的資源、物的資源、人的資源、組織的資源である。
財務的資源(financial resources)とは、その出所を問わず、企業が戦略を起案・実行するうえで用いるあらゆる金銭的資源である。財務的資源には、起業家自身の金銭、または株主、債権者、銀行から手に入れた金銭などがある。過去に得た利益のうち、自社にふたたび投資したものである留保利益(retained earnings)も重要な財務資源である。
物的資源(physical resources)とは、企業が用いるあらゆる物理的テクノロジーである。これには工場や生産設備、立地、原材料へのアクセスなどが含まれる。物的資源に含まれる工場・生産設備の具体例としては、コンピュータのハードウエアやソフトウエア、産業用ロボット、自動倉庫などがある。物的資源としての立地は、幅広い業種において重要な役割を果たす。
たとえば、ウォルマート(競争の激しい都心部の店舗よりも郊外の店舗で全体的に高いリターンを得られている)やL.L.ビーン(L.L. Bean、本社をメイン州の田舎に置くことにより、社員がアウトドア志向の顧客ライフスタイルに精通できると考えているカタログ販売業者)がそうである(注1)。
人的資源(human resources)とは、個人のマネジャーや従業員が受けた人的資源育成訓練、あるいはその仕事経験、判断力、知能、人脈、洞察力などである(注2)。マイクロソフトのビル・ゲイツ(Bill Gates)、アップルのスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)などの有名起業家が、それぞれの企業にとっていかに重要な人的資源をもたらしたかは言うまでもない。
しかし、企業にとって価値があるのは起業家や経営幹部がもたらす人的資源だけではない。
サウスウエスト航空(Southwest Airlines)などの企業では、社員1人ひとりが会社全体の成功に欠かせない役割を果たしている。イライラとした乗客をジョークを言ってなだめようとするゲート係員の意欲、乗客の手荷物を少しでも早く飛行機に積み込もうとする荷物係のてきぱきとした働きぶり、あるいは、燃料消費を節約する飛行ルートを選ぶパイロットの判断力。これらの人的資源はすべて、米国航空業界の厳しい競争を勝ち抜くためにサウスウエスト航空が活用してきたリソース基盤の一翼を担っている(注3)。
個人の属性である人的資源に対し、組織的資源(organizational resources)とは集団の属性である。組織的資源には、企業の公式な指揮命令系統、公式・非公式を問わない経営企画・経営管理・調整システム、企業文化や世間的評判、企業内の集団同士の非公式な関係、企業と外部集団との非公式な関係などがある。
サウスウエスト航空では、人的資源同士の関係が重要な組織的資源となっている。たとえば、定刻どおりに出発できるよう、同社のパイロットが飛行機への手荷物積載を手伝う姿はごく普通に見られる光景だ。サウスウエスト航空の従業員の協調性や熱意は、会社に対する非常に強い忠誠心のあらわれである。こうした忠誠心の結果、サウスウエスト航空は、従業員の組合加入率が80%を超えていながら、離職率が低く、労働生産性は高い。
リソース・ベースト・ビューの基本的前提
リソース・ベースト・ビューの根底にあるのは、企業の経営資源やケイパビリティに関わる2つの基本的前提である。
第1に、企業はたとえ同じ業界で活動していても、それぞれ異なる経営資源やケイパビリティを保有している。このような前提を、経営資源の異質性(resource heterogeneity)と言う。経営資源の異質性ゆえに、ある同じ事業活動を遂行する能力が他社よりも高い企業もあれば、相対的に低い企業もある。
たとえば製造技術においては、トヨタが恒常的にフィアット・クライスラー・オートモービルズ(Fiat Chrysler Automobiles)などの他企業を上回っている。プロダクトデザインでは、アップルが常にIBMなどを上回っている。バイク業界では、「大きく、不良っぽく、騒々しいバイクをつくるメーカー」というハーレーダビッドソン(Harley Davidson)のイメージは、競合との違いをきわだたせている。
第2に、ある経営資源やケイパビリティを持たない企業がそれを開発したり獲得したりするには大きなコストがかかる場合がある。それゆえに、経営資源やケイパビリティに関する企業間の違いは持続する傾向がある。このような前提を、経営資源の移動困難性(resource immobility)と言う。
たとえば、トヨタが現在フィアット・クライスラー・オートモービルズに対して有する製造技術における優位は、元をたどれば、当時は別々の会社だったフィアットとクライスラーそれぞれに対する優位として30年前から存在していた。アップルは1980年代の創業以来、常にプロダクトデザインにおいてIBMを上回ってきた。そしてハーレーダビッドソンのバイクには、何十年も前からいまと同じ独特な評判があった。このように企業間の違いが持続しているのは、トヨタ、アップル、ハーレーダビッドソンの競合が自社の劣位を自覚していないからではない。実際、IBMや数多くの日本産バイクメーカーなどはこうした劣位を克服するべく改善に取り組み、一定の成果をあげている。しかしこうした取り組みはあるものの、トヨタ、アップル、ハーレーダビッドソンなどは、依然として競合他社に対する優位を保つことができている。
以上2つの前提を合わせて考えれば、活動する業界が同じであっても、企業によってパフォーマンスが異なることの説明がつく。すなわち、もしある企業が他社にない貴重な経営資源やケイパビリティを持ち、他社がそれを模倣するコストが高すぎると判断している場合、そのような有形・無形の資源を持った企業は、持続的競争優位を確保できる可能性がある。
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【注】
1)ウォルマートについてはGhemawat, P. (1986). “Wal-Mart stores’ discount operations.” Harvard Business School Case No. 9-387-018を、L.L.ビーンについてはKupfer, A. (1991). “The champion of cheap clones.” Fortune, September 23, pp. 115-120; およびHolder, D. (1989). “L. L. Bean, Inc. - 1974.” Harvard Business School Case No. 9-676-014を参照のこと。国際的な買収をはじめとしたウォルマートの最近の動向については、Laing, J. R. (1999). “Blimey! Wal-Mart.” Barron’s, 79, p. 14に記述されている。90年代のL.L.ビーンの停滞と同社の再生計画については、Symonds, W. (1998). “Paddling harder at L. L. Bean.” BusinessWeek, December 7, p. 72に記述されている。
2)企業における人的資本の重要性について初期に論じたものとしては、Becker, G. S. (1964). Human capital. New York: Columbia University Press(邦訳『人的資本』佐野陽子訳、東洋経済新報社、1976年)を参照。
3)Heskett, J. L., and R. H. Hallowell (1993). “Southwest Airlines: 1993 (A).” Harvard Business School Case No. 9-695-023.