リーダーが従業員の信頼を取り戻す6つの行動
Illustration by Andrea Ucini
サマリー:経営幹部への信頼が、地政学的、経済的混乱や社会的不安の高まりの中で急速に低下している。従業員などを含むステークホルダーは、リーダーに明確な価値観のもとでの意思決定や迅速な学習と適応、心理的安全性のある... もっと見るチーム運営を求めている。本稿では、こうした信頼の回復に向けて、リーダーシップチームが実践すべき6つの行動を紹介する。 閉じる

リーダーへの信頼は急速に低下している

 最近の調査によると、自分が勤める会社の経営幹部の執行能力や調整能力、そして経済的、地政学的、そして技術的な混乱に耐える能力に対する信頼が急速に低下している。これは組織全体で見られる傾向だ。すなわち、取締役会から経営幹部、従業員までの誰もが、自社のリーダーシップチームが対立する利害関係者の要求に耐えられず、自分よりも会社の利益を優先できていないと感じている。

 筆者も、クライアントの経営幹部たちから同様の話を聞いている。複数の要因が、彼らがチームを結束したり統率したりする能力を傷つけており、その結果、彼らの信用が低下しているというのだ。政権交代が会社のポリシーの急変をもたらし、リーダーはアジャイルであり続けると同時に、ころころ変わる規制へのコンプライアンスを迫られている。優先課題が急変する中(とりわけDEIや価格設定、サプライチェーンのソーシングなどで)、リーダーシップチームは先の見通しが限定的であっても、迅速な決定を下すことを強いられている。グローバルな緊張や紛争は、サプライチェーンや市場の安定を揺さぶる可能性があり、リーダーは先手を打ってこれらのリスクを評価、管理して、組織を守らなければならない。さらに、政治的活動と社会的緊張の高まりを受け、経営幹部にとっては個人的なリスクが増大し、リーダーシップを守りつつ、組織の安定を維持するために強固なセキュリティ対策が必要になっている。

 この新しいタイプの撹乱要因をとりわけ厄介なものにしているのは、それが市場や組織が従来直面してきた一般的な課題とは異なり、前例のない(したがって今後の前例となる)問題であることだ。つまり、未知の領域に足がかりを得るためには、当然少しばかり失敗することも予想されるが、それがチームにおける信頼をいっそう低下させる可能性がある。その一方で、ステークホルダーは、未知の状況を理解しようと必死だ。そしてリーダーであるあなたが、たとえ知らないことでも、知っていることを期待する。

 あなたは答えを知らないかもしれないし、新しい情報によって考えが変わるかもしれない。それでもリーダーシップチームは、事態が進展するに従い、それに適応し、決定に関する考え方を共有しなくてはならない。混乱の中でも、リーダーシップチームが組織を指揮する能力を維持して、信頼を強化するためにできることを6つ紹介しよう。

組織の価値観と一致した決定を下し、価値観と一致した方法で伝える

 二極化する地政学的な風潮を受け、リーダーシップの行動に対する監視は増幅する。みずからの意思決定を、組織の価値観や倫理的な理念に常に一致させるリーダーは、信頼を維持できる。

『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に2024年掲載された筆者の共著記事に対して、ある読者は最近、自分の会社は「チームワークと助け合いが重要である」という価値観を明確にしているのに、会社の経営陣は「密室での駆け引き」にふけっているとコメントをくれた。「従業員に求める行動とは矛盾するような振る舞いを(経営陣が)すれば、それが会社の文化にいかに破壊的な行動か」に気づいたと語る。そして、そのような偽善が、経営陣レベルでは普通のことなのだと判断したという。

 変動が激しく先が見えない時代には、生き残りのために人員削減に走りたくなるのは理解できる。しかし、その結果、組織がばらばらになってしまえば、経営陣が組織全体の利益よりも自分たちの利益を優先したように見えてしまう。難しい決断の背景に組織の結束があることは、リーダーシップチームの信頼を維持する上で決定的に重要だ。現在の環境における自己防衛や人員削減は、会社の価値観の模範を示すという経営陣の決意に亀裂があることを示唆し、信頼が低下する原因になる。