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出社回帰により明らかになった雇用者と従業員のギャップ
アマゾン・ドットコムが2024年9月に出社日を週3日から5日に変更すると発表したところ、たちまち猛反発が起こった。プロフェッショナル職2585人を対象とした調査では、91%が新しいポリシーを不満とし、73%がそれを理由に転職を考えていると答えた。
コロナ禍も終わり、従業員の出社回帰を図ったところで、強烈な逆風に直面しているのは、アマゾンCEOのアンディ・ジャシーだけではない。デル・テクノロジーズは、在宅勤務を続ける従業員は昇進の資格を失うとする、脅迫的な手段に出た。JPモルガン・チェースでは、CEOのジェイミー・ダイモンが、週5日出社に抵抗する従業員を厳しく批判してきた。そしてスターバックスは、週3日出社のポリシーが守られているかどうかを確認するための「説明責任プロセス」を定めた。対象には、南カリフォルニアからシアトルに通勤する新CEOも含まれる。
出社再開を推進する会社と、在宅勤務を選択する権利を主張する従業員の戦いは、双方の過剰反応だと見なされがちだ。経営幹部は世の中の変化をわかっておらず、従業員は甘やかされて、特権意識を持ち、やる気がないと批判される。しかし、この争いから生じる怒りは、より深い問題が存在することを示唆している。
本稿では、職場のポリシーをめぐる怒りは、従業員が組織との間に存在すると思っていた暗黙の心理的契約の崩壊、とりわけ「何が公平か」をめぐる雇用者と従業員の認識の不一致を反映していると主張したい。この不一致を解決するためには、雇用者が職場ポリシーを確立する時、正義の倫理(合理的で万人に適用される「公平」の概念)に基づく手法から、ケアの倫理に基づく柔軟でパーソナライズされた手法に移行する必要がある。本稿では、ケアの倫理とは何かを説明し、筆者らが研究やエグゼクティブ向けのプログラムで協力している企業が、ケアに基づくポリシーをどのように確立しているかを紹介し、あなたの会社がケアの文化を生み出す方法について手引きを示したい。
公平とはどういうことか
心理的契約とは、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)教授を務めた故クリス・アージリスが唱えたもので、従業員が会社に対して負っている責任と会社が従業員に対して負っている責任に関する、暗黙の理解を意味する。心理的契約は信頼に基づくと述べるのは、カーネギーメロン大学教授のデニーズ・ルソーだ。この信頼は、「貢献とは等価の報いをもたらすものであり、人間関係とは一方の行動が相手方の行動に縛られるという信念から育つ」ものだという。重要なことに、「人間関係が傷つくと、容易に修復できない」とルソーは指摘する。
ポストコロナ禍の出社回帰ポリシーは、心理的な契約の破綻を示す強力な例だ。在宅でも生産的に仕事ができることを証明したと感じ、一時的ではないつもりでライフスタイルを変えた従業員は、理由はどうあれポリシーの変更を告げられた時、裏切りを感じた。アマゾンの話に戻ると、出社ポリシーの変更を説明するに当たり、ジャシーは従業員宛てに次のようなメッセージを送った。「(全員がオフィスにいるほうが)チームメートが我が社の文化を学び、模範を示し、実践し、強化しやすいことがわかった。コラボレーションやブレインストーミング、そして発明も、ずっと単純明快で有効になる」
筆者らはこの主張に賛成であり、2021年の『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)への寄稿でも記している。しかし、出社回帰の根本にある真の問題が、雇用者と従業員の信頼や人間関係であるなら、文化が強化されるとか、効果的なブレインストーミングが可能になるという主張は的外れであり、そのポリシーが正しくて公平だと相手を説得することはできない。むしろ、ここで問題となっているのは、心理的契約の当事者が雇用条件に関して相手方に担う義務について、認識の不一致が存在することだろう。