米国再生のカギは、製造業ではなくサービス部門にある
Ozgur Donmaz/Getty Images
サマリー:米国の中間層を再建するには、製造業だけでなくサービス職の強化が不可欠だ。多くの労働者が従事するこの分野は、AIによる自動化が難しく、今後の雇用拡大も見込まれている。生産性と尊厳を両立させる「グッド・ジョ... もっと見るブズ・ストラテジー」は、企業の業績向上にも寄与する実証済みのアプローチである。本稿では、高い生産性と尊厳を備えたサービス部門の構築がなぜ重要なのか、またその実現に向けた具体策を提案する。 閉じる

サービス部門の強化こそ、いまの米国に不可欠

 製造業の復活は、ドナルド・トランプ米大統領の経済政策綱領の要である。たしかに、強力な製造部門は国家安全保障やイノベーション、経済のレジリエンスに欠かせないものであり、労働者階級の職を増やす可能性を秘めている。とはいえ、製造業だけで米国の繁栄を幅広く回復できるわけではない。もし国がミドルクラス(中間層)の再構築を真剣に考えているなら、同じくらい注目すべきなのは、すでに豊富にある職、つまりフロントラインのサービス職だ。

 本稿では、高い生産性と尊厳のあるサービス部門が米国に不可欠な理由を説明し、そのようなサービス部門を構築し強化する方法について具体的なアイデアを提供したい。

サービス部門の重要性―現在と未来

 米国においてウォルマートで働く人の数は、国内の全自動車工場の労働者を合わせた数よりも多い。この事実は深い真実を浮き彫りにしている。ミドルクラスの未来は、製造業よりも、すでに身の回りにある仕事、つまりサービス職にはるかに大きく依存しているのだ。

 2023年5月、米国では910万人が製造業の生産・非管理職に就いていた。同月、4000万人以上が商品の補充、調理、高齢者介護、配達、ビル清掃、修繕、その他のさまざまなフロントラインのサービス職として働いていた。たとえ全製造部門の労働者が一晩で倍増したとしても、やはりサービス部門のほうが圧倒的に多い。労働者階級の大半はサービス職として雇用され、この仕事によって経済が回っている。だからこそ、彼らはパンデミックの時期にエッセンシャルワーカーと呼ばれたのだ。

 米国の仕事の未来もサービス業が握っている。2023年から2033年までに最も雇用の増加が見込まれる職業のトップ5には、介護士、調理師、ファストフード店員が含まれている。

 コールセンターやオンラインの顧客サービスなど少数の仕事を除いて、ほとんどのサービス職はAIやロボットで自動化するのが難しい。顧客によって、いつ何を必要とするかは違うし、商品の大きさや特性、脆弱性もまちまちだ。人間のほうが、そうしたばらつきに対して、機械よりもはるかに柔軟に対処できる。だから、タスクによっては自動化できるにしても、人間のパフォーマンスのほうが優れていることが多い。人間は顧客サービスとその他のタスクを行ったり来たりできるし、顧客の流れやニーズに応じて、作業のスピードを速めたり緩めたりできる。そして、顧客の多様な要求に対応することもできる。一人の人は接客をした次の瞬間にゴミ出しをしたり、商品を見栄えがするように並べたり、棚に商品を補充したりすることができる。

 適切なテクノロジーの導入はサービスワーカーの仕事を補完し、人間のできることの範囲を広げるだろう。だが、人間の柔軟性や思いやりを容易に再現できるロボットやアルゴリズムは、存在しない。

生産性と尊厳の両方が必要な理由

 多くのサービス職は経済的・社会的意義があるにもかかわらず、十分な敬意を払われていない。しばしば「未熟練」労働として片づけられたり、キャリアではなく単なる足がかりと見なされたりする。