ブランドは「検索エンジン」よりも「生成AI」を攻略せよ
Grant Faint/Getty Images
サマリー:消費者の行動が急速に変化している。製品やサービスに関する質問を、従来の検索エンジンではなく、チャットGPTやジェミニなどの生成AIに投げかける人々が急増しているのだ。この構造的な転換は、マーケティングの前... もっと見る提そのものを覆しつつある。もはやブランドは人間の目だけを意識すればよい時代ではない。大規模言語モデル(LLM)に自社ブランドを認識・推薦してもらうことが、新たな競争優位を生むカギとなる。本稿では、LLM時代のブランド戦略を定義する新指標「モデルのシェア」(SOM)に着目し、マーケターがどのように自社の可視性を高め、AIに選ばれる存在になるべきかを説明する。 閉じる

検索エンジンから生成AIプラットフォームへの移行

 過去1年の間に消費者は従来の検索エンジンから、チャットGPTやジェミニ、ディープシーク、パープレキシティといった生成AIプラットフォームへといっせいに移行した。消費者1万2000人を対象とする調査では、製品・サービスを勧めてもらうために生成AIツールに頼っているとした回答は58%に上った(2023年にはわずか25%)。別の調査によれば、2024年の休暇シーズン(11月~12月末)におけるAI検索を経由した米国小売りサイトへの流入は、1300%増加した。

 大規模言語モデル(LLM)を使って発見、計画、購入を行う消費者は、平均的により若く裕福で、教育水準が高い。彼らのカスタマージャーニーの起点はもはや検索クエリやウェブサイト訪問ではなく、対話だ。消費者はAIアシスタントに「200ドル以下で最も優れたコーヒーマシンはどれか」「あまりお金をかけずに週末に出かける計画を立てて」といった質問をしている。

 ブランドリーダーにとって、その影響は計り知れないほど大きい。ブランドのデジタル戦略はいまや検索アルゴリズムだけでなく、AIのレコメンドエンジンの最適化も含める必要がある。つまり、自社ブランドに対するLLMによる認知度を高めなければならないのだ。

「モデルのシェア」の台頭

 これまで認知度の測定とは、消費者の関心や注目の度合いを調べることを意味した。オフラインでは想起調査(例:「ランニングシューズについて考える時、どのブランドが思い浮かぶか」)、オンラインでは検索数やソーシャルメディアでの言及数などを通じて、そこに現れる個人的意向や人気を測定していた。

 しかし、消費者とブランドを仲介するLLMの役割が高まる中、マーケターは別の種類の認知度を考慮する必要に迫られている。すなわち、LLMによってブランドがどれほど頻繁に、目立つ形で、優遇的に消費者に提示されるのか、である。筆者らはこの認知度を「モデルのシェア」(SOM:Share of Model)と呼んでいる。

 検索のシェア(SOS:競合ブランドと比較して、人々はこのブランドをどれほど多く検索しているのか)や、声のシェア(SOV:競合ブランドと比較して、人々はこのブランドについてどれほど多く言及しているのか)が、AI時代において派生したものがSOMだと考えればよい。SOMは与えられたプロンプトに対するLLMの認識とレコメンドを一意的に再現する。人間の意向(SOS)や、利用可能なコンテンツ(SOV)を反映するものではない。

 筆者らのうち2人が所属するマーケティングエージェンシーであるジェリーフィッシュは、大規模なプロンプティングを通じてSOMを測定する方法論を先駆けて開発した。本稿ではこのアプローチに基づき、AIがブランドについてどのように「考えているのか」をひも解く3つの新たな視点を提示する。