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新任CEOの着任タイミングとROAの関係
取締役会は、慎重な後継計画がいかに重要かを知っている。新しいCEOに堅実に移行することのメリットは明白だ。一方、承継に失敗すれば、株主価値にして数十億ドルもの損失が生じ、従業員は動揺したり混乱したりし、他のトップ人材が会社を去っていくこともある。筆者らは最近の研究で、取締役会が任命した人物によって企業価値を高めるための方法を明らかにした。それは、年初または会計年度の始まりにCEOを着任させることである。
『ジャーナル・オブ・マネジメント』誌に発表した新しい研究で、筆者らはCEOの「フェーズのエントレインメント」(同調)、つまり、新しいCEOの任命(企業のサイクル)と年間サイクル(支配的サイクル)の開始を同期させることが、企業のCEO承継後の業績にどのような影響を与えるかを調べた。本研究では、2005年から2019年の間にS&P500企業で実施された690件のCEO承継をサンプルとした。
筆者らは、新任CEOの着任日を基準として、その後12四半期における企業の総資産利益率(ROA)を比較した(新リーダーの影響を十分にとらえるには3年を要することが、過去の研究からわかっている)。CEOの任期が、暦年または企業の会計年度の開始から10日以内に始まった企業は(サンプルの承継の約25%)、その年の他の時点でCEOの任期が始まった企業に比べてROAが平均0.4%高かった。
この効果は一見小さく見えるかもしれないが、サンプルの平均ROAと比較して約31%の差に相当し、最初の10日間を過ぎるとその効果は薄れていった。このように、CEOの着任時期と年間サイクルを同期させた企業は、概して、承継後の同じ期間で純利益が向上していることも明らかになった。さらに、この効果はCEOがアウトサイダー(社外出身者)、46歳以下、女性、人種的または民族的少数者グループに属する場合は、さらに大きいことがわかった。
同期させることが重要な理由
筆者らは研究データの分析に加えて、着任および退任するCEO、最高人事責任者(CHRO)、取締役、その他のステークホルダーに対して追加の調査と面接を行った。その結果、新しいCEOの就任を年初または会計年度の始まりと同期させることには、3つの理由でメリットがあることがわかった。
目的や目標との整合性
年末や会計年度末は成果の達成が期待される時期であり、年初は新たな目標が設定される時期である。新年に着任するCEOは、自身のビジョンに基づいて企業の目標や目的を設定することができる。新しいCEOの目標や目的に対して、社員の取り組みを時間的に整合させることで、社員はその目標の実現に向けて、より連携したかたちで業務に取り組むことができる。
混乱の最小化
CEO交代の理由が何であれ、企業にとって大きな混乱をもたらす出来事である。または会計年度の始まりは、社員の業務を中断する自然な区切りを提供するものである。新しいCEOの承継を年初または会計年度の始まりと同期させることで、社員は成果が求められる時期の前に、タスクやプロジェクトに対する集中力と注意力を取り戻すのに十分な時間を確保できる。その結果、CEO交代に伴う混乱の影響を緩和することができる。
時間的プレッシャーの緩和
成果を出すことへのプレッシャーは常に存在するが、新任CEOにとってはなおさら強いものである。しかし、このプレッシャーは年末や会計年度末が近づくにつれて特に強くなる。この時期には企業の業績が厳しく精査され、従業員は評価面談を受けることが多い。
たとえば、年の途中で任期を開始したCEOは、利益操作に関するプレッシャーを感じやすく、それが意思決定に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、CEOの任命を新年または会計年度の始まりに行うことで、時間的プレッシャーを緩和し、意思決定の質を高め、最終的には業務遂行の成果を向上させることができる。
さらに、従業員も年末には、目標をどれだけ達成したかを数値で証明しなければならないという追い込みのようなプレッシャーを感じている。年の途中に新たな目標や方針が与えられると、評価時点までにそれに対する進捗を示す時間が限られてしまう。目標を達成できなかった場合には、士気が下がり、従業員エンゲージメントを損なうリスクがある。
なぜ非典型的なCEOにおいて効果がより大きく現れるのか
筆者らの分析では、企業が誰を後継者に選んだとしても、業務遂行上の利益を得られることが明らかになったが、そうした効果は、新任CEOが「非典型的」である場合に特に強く現れることがわかった。ここでの「非典型的」とは、より広範なCEO層の中では一般的でない特徴を持つことを意味する。具体的には、アウトサイダー(社外から任命された者)、若年(46歳以下)、女性、人種的または民族的マイノリティに該当する場合に、非典型的なCEOと定義した。
年初や会計年度の始まりは、単なる時間の区切り以上のものであり、人々にとって特別な意味を帯びていることが多く、新たなスタートを切ったような感覚を与える。こうしたサイクルの始まりでは、従業員はよりオープンな思考を持ち、新しいスキルの習得や考えの受け入れに前向きになる。
先行研究が示すように、非典型的なCEOは大きな戦略的変革を行う傾向がある。こうしたオープンな時期に企業のサイクルを合わせることで、非典型的なCEOの戦略的取り組みが受け入れられるか、実行に移される可能性が高まると筆者らは考える。これが、非典型的なCEOの着任日が企業の年間サイクルと同期している場合に、企業の業績がより高くなる一因であると考えている。
留意点
筆者らは、新しいCEOを年初や会計年度の始まりに任命することが、企業にとって常に可能であるとは限らないことを認識している。場合によっては、CEOを解任してすみやかに新任者を任命する必要があることもあれば、健康上や個人的な理由により、CEOが突然辞任しなければならないこともある。そのような場合、理想的なタイミングでの任命は困難となる。
とはいえ、このような突発的な交代を余儀なくされる企業であっても、本研究の知見を活用できる余地はある。たとえば、承継を「新たなスタート」としてどのように位置づけるかを工夫したり、新たなビジョンの実行に向けて従業員に十分な時間を与えるよう、業績評価のタイミングを調整したりすることが考えられる。
さらに、本研究は、グレゴリオ暦における1月1日の新年など、特に欧米社会において意味を持つ年間行事を前提としている。しかし、こうした日付は非欧米の国々では同様の意味を持たない可能性がある。取締役会は、自社の置かれた文化的・地域的文脈において、どの時期に意味があるのかを慎重に見極める必要がある。
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長い時間をかけて人選を進めてきた取締役会は、新任CEOが新しい職務で成功するよう、あらゆる手段を尽くしたいと考える。筆者らの研究は、新任CEOの着任時期と年間サイクルの同期が、取締役会にとって新任CEOに競争優位をもたらすための重要なメカニズムであることを裏づけている。この同期の仕組みによって、新任CEOは業務遂行の成果を向上させると同時に、自身のビジョンと従業員の足並みを揃えることが可能となる。
"Research: Why CEOs Should Start with the New Year," HBR.org, June 11, 2025.