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楽観主義の罠
1992年、医療保険のオックスフォード・ヘルス・プランは保険金の請求支払業務を処理する複雑な新コンピュータ・システムの構築に着手した。プロジェクトは開始早々から予想外の問題や遅延が相次いだ。
次々とスケジュールが遅れ、費用がかさむなか、同社は増え続けるペーパーワークの量を抑えようと空しい努力を続けた。97年10月27日、同社のシステムと保険金口座が混乱状態にあることが発表されると、同社の株価は63%も下落し、わずか一日で30億ドルの市場価値が失われた。
80年代前半、イギリス、ドイツ、イタリア、スペインの4カ国は最新鋭戦闘機〈ユーロファイター〉の共同開発に取り組むことを発表した。同プロジェクトの予算は200億ドル、実用化は97年の予定だった。
しかし、技術上のトラブルや予想外の支出が相次いだ結果、20年近くたった現在もこのジェット機は実戦配備されておらず、予想される費用総額も約450億ドルと当初予算の2倍以上に膨れ上がっている。
96年、ユニオン・パシフィック鉄道は競争相手のサザン・パシフィック鉄道を39億ドルで買収し、北米最大の鉄道会社となった。
しかし、両社はほぼ当初から業務統合に深刻な支障を来たし始め、やがてそれはダイヤの混乱や貨物の紛失、大幅な運行の遅れへと発展した。状況が悪化し、株価が急落すると、顧客や株主は相次いで同社を訴えた。ユニオン・パシフィックは問題処理のために配当金を引き下げ、新たな資金を調達しなければならなかった。
ビジネスでは、えてしてこのような悲惨な失敗が起こりがちだ。大規模な設備投資プロジェクトの大半は予定より遅れ、予算を超過し、期待外れのまま終わってしまう。たとえば、北米に新設される工場の70%以上は、運転開始後、10年を待たずに閉鎖されている。
M&Aの約4分の3が、最終的に利益を上げるに至っていない。買収企業の株主の損失が被買収企業の株主の利益を上回るからである。新規市場参入プロジェクトでも結果は似たようなもので、その圧倒的多数は数年以内に放棄されている。
標準的な経済理論によると、失敗の多さは簡単に説明できる。曰く、企業が不確実な状況下で合理的なリスクを負う限り、失敗の頻度が高くなることは避けられない──。
起業家も経営者もその危険は承知のうえだが、成功すれば十分魅力的な見返りを得られるという理由から、これを受け入れる。長期的に見れば、少数の成功から得た利益は多数の失敗による損失を上回るに違いないというわけである。