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なぜ権力を手にすると堕落し始めるのか
これまでの10年間は、大胆かつ野心満々、ひたすら前進あるのみというリーダーの時代と記憶されるのではないだろうか。
事実、90年代のアメリカでは、たとえばエンロンのケネス・レイ、タイコ・インターナショナルのデニス・コズロウスキー、ワールドコムのバーナード・エバーズといった積極果敢なトップがお気に入りだった。
奥の院に潜んでいた大物たちがビジネス誌の表紙を飾るようになると、ルールなど意に介せず、居並ぶライバルをぶっちぎっていく大胆不敵な態度に、だれもがその目を奪われた。ただし彼らは、神話のイカロスよろしく、あまりに高く飛びすぎた。スキャンダルが暴かれ、かつて崇拝と羨望の的であったリーダーたちは急転直下で地に落ちた。
実業界に限らない。政治、宗教、メディアなどの他分野でも、尊敬の対象であったリーダーたちが次々に堕ちていった。斯界の帝王だった人物が、次の瞬間には舗道に叩きつけられる。いったい何がまずかったのか、本人も首をひねるばかりだ。
レイやコズロウスキー、エバーズのような人間は、これほど急速に失墜するとはとうてい思われなかった。この種のスター経営者は、あっという間に頂上を制覇する過程で、長丁場を勝ち抜く知力、機略、そして意志の存在を幾度となく証明してきた。
行く手を遮る障害は何物もねじ伏せ、その実力を誇示した。また、そのカリスマ的な魅力、壮大なるビジョン、無尽蔵とも思える洞察力によって、投資家をくどき、社員を魅了し、メディアを虜にしてきた。
しかし、たえずトップ・クラスの実績を積み重ねてきた人間が、すべてを手中に収めたかと思った瞬間、業務上の判断や個人的な言動に、そのような人物らしからぬ隙を見せてしまう。
ある経営幹部の経歴を紹介しよう。マージョリー・ピール(仮名)のスタートを見て、その墜落炎上の悲惨な末路をだれが予想しえたことだろう。
ピールは中流階級でも下のほうの家庭に育ったが、自分は身内で最初の大卒者となり、アメリカン・ドリームを実現することを誓った。ピールは高校でも人気者で、クラス委員に選ばれ、将来の出世頭と評されていた。
彼女のあこがれは、クライスラー(現ダイムラー・クライスラー)のリー・アイアコッカであり、ザ・ボディショップのアニータ・ロディックであり、ゼネラル・エレクトリックのジャック・ウェルチであり、とにかく実業界で名を上げたいと願っていた。