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不安定な産業政策の時代
企業の取締役会や報道機関は、現在進行中の貿易戦争の話でもちきりだ。断続的に繰り返される関税措置と、経済的に好戦的な声明は、不確実性や混乱、そして恐怖さえも生み出している。しかし、ここ数カ月の市場の動揺と業務上の混乱に目を奪われるあまり、根底にある変化(混乱や変動はその表れにすぎない)を見落としてしまう危険がある。状況が落ち着いたとしても(いずれそうなるだろう)、企業は新しい構造的現実に直面しなければならない。すなわち、ビジネスの商取引における競争が、国家の産業政策によって直接的に大きく左右される時代に突入したのである。
かつて、立法や貿易政策・環境対策といったマクロ政策は長期的なサイクルの課題であり、経営陣も「ああ、次のG7首脳会議でどんな話が出てくるか様子を見よう」と言うことができた。だが、いまやそのようにのんびりと構えている余裕はない。米政府高官が「政府の役割は勝者と敗者を選ぶことではない」と断言していた時代や、先進国のリーダーが「政府の政策は公平な競争環境を確保することに尽きる」と、日常的かつ本気で明言してくれた時代は、(感覚的にはごく短期間のうちに)終わってしまったのだ。
明確であろうと曖昧であろうと、卓越していようと愚策であろうと、産業政策は存在している。したがってビジネスリーダーは、政府が自社に与える影響を知る必要がある。つまり、産業政策が価値の創造をいかに危険にさらし、いかに強化し、それを拡大する機会をいかに創出したりするかを見極めなくてはならない。
産業政策の現状とは
経済協力開発機構(OECD)の定義によれば、産業政策とは「政府が企業による特定の経済活動を促進または再編するために提供する支援」であり、「とりわけ、その活動内容や技術、所在地、規模、または存続期間に基づき、企業またはある種の企業を支援すること」をいう。その手段としては関税や優遇措置、補助金、そしてインフラなど公共財への投資などがある。この定義に従えば、産業政策はすべての主要経済圏における戦略的なプログラムと化している。
アメリカの場合を考えてみよう。トランプ政権とバイデン政権は非常に異なる道を歩んできたが、共和党も民主党も掲げている目標は似ている。すなわち、半導体やマイクロチップの研究開発と製造、エネルギー生産、AIなどを支援すること、そして中国製の部品や材料への依存度を引き下げ、重要分野における経済的自立を推進することだ。
また、国際通貨基金(IMF)によると、欧州連合(EU)諸国はこの10年で産業支援への支出を3倍に増やしてきた。同時に、EU自身も特定の産業を支援し、域外の国々への依存を減らすために「競争力コンパス」を策定した。
中国では長年、国家が経済を管理してきた。アジア・ソサエティとスタンフォード大学の専門家からなるパネルは2022年、「習近平国家主席の下で、中国指導部は重要技術分野における自立と自給自足を強硬に推し進めるようになった」との点で意見が一致した。