トランプ大統領の「意図的な不確実性」にどう備えるか
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サマリー:米国では、消費者心理の低下や市場の不安定化が景気後退への懸念を呼んでいる。加えて、トランプ大統領が意図的に生み出す政策の不確実性が、経営環境に新たなリスクをもたらしている。本稿では、このような不透明な... もっと見る状況下において、リーダーがいかに意思決定を行い、戦略的オプショナリティを確保することで変化に柔軟に対応すべきかを考察する。 閉じる

トランプ大統領が意図的に生み出した不確実性に対処する

 消費者心理の落ち込み、不安定な金融市場、そして散見される期待はずれのマクロ経済データが、米国の景気後退の懸念を煽っている。ドナルド・トランプ大統領でさえ、フォックスニュースのキャスターであるマリア・バーティロモから、2025年は景気が後退すると予測するか尋ねられると、「そういうことを予測するのは嫌いだ」と言いながらも、反論はしなかった。

 トランプが大統領に就任してから2カ月(編注:本稿は2025年3月14日に米国で公開された)が経ったいま、米経済のファンダメンタルズが急激に悪化したという証拠はない。変わったのは、政治戦略として政策変更に関する意図的な不確実性が持ち込まれたことだ。「私は、自分が何をしているのか、あるいは何を考えているのかを人々に知られたくない。予測不可能でありたい」とトランプはかつて述べている。

 これらは、今日のエグゼクティブは、リスクが増加し、先行きが不透明な状況に対処していることを意味している。トランプの意図的な不確実性は新たなリスクをもたらしているが、景気拡大の終焉は、世論が好んで描くほど明確ではない。

リスクは高まっているが、景気を悲観視するのはまだ早い

 関税が、いつ、どこで、どれくらいの規模で、どの程度維持またはエスカレートするのかは、米国経済にとって大きなリスクだ。関税は外国の生産者に課せられる税金であり、輸入品にコストが上乗せされ、ほとんどの場合、消費者価格に転嫁される。

 関税の範囲と永続性をめぐる不確実性は、インフレ再燃の問題を引き起こしている。2018年にトランプが発動した関税は、低インフレの時期に物価水準を一時的に変化させた。今日では、一時的な関税であっても好ましくない物価上昇を引き起こし、関税引き上げが繰り返されれば、長期にわたって物価が上昇することになる。

 しかし、経済崩壊の宣言を急ぐ人々は、2022年、2023年、2024年に「避けられない」景気後退として広く報道された相次いだ誤報を考慮するのが賢明かもしれない。そうした報道について筆者らは、過去のHBRの論考で指摘している。このような景気後退の議論の多くは、消費者に焦点を当てたものだった。インフレによって消費者の支出が抑制され(実際はそうではなかった)、消費者はパンデミック時の貯蓄や現金を使い果たし(消費者はそうしなかった)、金利が上昇すれば、破産やクレジットカードの債務不履行が相次ぐとされた(通常を上回る事態にはならなかった)。

 消費者のファンダメンタルズを冷静に分析すると、リスクは高まっているものの、景気後退は依然として比較的ハードルが高い。経済成長予測を下方修正することは適切だが、景気後退が不可避であると考えるべきではない。健全な労働市場は現在の景気拡大の基盤であり、労働市場が逼迫する中、雇用は継続している。このことが賃金上昇を力強く維持し、インフレが鈍化していることで実質賃金の伸びにつながっている。

 結果として、消費はインフレ調整後の数値で2019年の水準を2兆2000億ドル上回り、16兆3000億ドルにまで拡大した。企業は賃金上昇を、利益やマージンを削ることではなく、生産性の向上によって賄った。AIが約束したような生産性の大幅な向上はまだ見られないが、生産、オペレーション、管理部門において、時にはAIの助けを借りながら、細かな改善が無数に行われている。これは、景気後退が起こりえないという意味ではないが、景気拡大が続くことを示唆している。

関税だけではない

 関税という逆風は、消費者に恩恵をもたらす可能性のある他の政策分野との関連で捉えなければならない。関税は消費を抑制するだろうが、減税はその逆の効果をもたらす可能性がある。注目すべきは、2017年の減税・雇用法(TCJA)による減税措置の延長が、現行税率の延長であるため、追加的な影響はないということだ。しかし、チップ、社会保障給付、時間外労働を非課税にするなど他の施策で、関税によるダメージの一部、または大部分、あるいはすべてを相殺できる可能性がある。