職場のイベントを価値ある体験へと高めるチェックリスト
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サマリー:ホリデーパーティや合宿、祝賀イベントといった職場の儀式は、従業員のエンゲージメントを高める一方、疎外感や個人的な犠牲といった否定的な経験も生み、効果を相殺してしまうことがある。儀式を成功させるには、肯... もっと見る定的な体験を増やすだけでなく、否定的な体験を意図的に防ぐ設計が不可欠だ。本稿では、そのための具体的な「すべきこと」「すべきでないこと」をチェックリスト形式で解説する。 閉じる

職場の儀式が従業員に与える影響とは

 今日の職場には、あらゆる所で組織的な儀式が存在する。毎朝のチームでのかけ声から、綿密に計画された年1回の祝賀会まで、企業は社会的なつながりを強化し、従業員のエンゲージメントやパフォーマンスを高めるために、共有される慣習の確立と維持に多大な時間と労力、資金を投じている。組織的な儀式の効果は研究によって裏づけられており、思想的なリーダーからも支持を得て、儀式が従業員やチームに与える影響は単純で一様に肯定的なものだという印象を形成している。

 しかし問題は、こうした組織の儀式に関するバラ色の描写が、必ずしも現実と一致しないことだ。たとえば、企業のホリデーパーティについて経験談を聞くと、否定的な経験として受け止めている従業員が少なくなく、この儀式を完全に廃止してほしいと思っている人も多い(正直なところ、あなたは昨年末の会社のホリデーパーティに本当に参加したかっただろうか)。こうした反応は、職場の儀式の効果が、これまで考えられていたほど一様に肯定的ではないことを示唆している。

 既存の文献を調べたところ、肯定的な側面を強調する研究の多くは、朝のかけ声のような単純な儀式に焦点を当てており、ホリデーパーティのような複雑な儀式は十分に考察されていなかった。では、儀式がより複雑で時間を要するものになった時、チームにどのような影響を与えるだろうか。

 筆者らが現在行っている研究では、複雑な儀式が、従業員のエンゲージメントや行動に影響を与えるさまざまな経験を引き起こすことが明らかになった。本稿では、この調査結果を説明しながら、組織が儀式によって堅実に投資利益率(ROI)を高められるように、一方で従業員が儀式の恩恵を享受できなくなるような潜在的な要因を計画段階で予測して対処するために、チェックリストを提案する。

調査の概要

 一連の研究では、ある程度の時間をかけて実施され、広範な社会的交流を伴う複雑な組織の儀式のダイナミクスを検証した。たとえば、ホリデーパーティ、チームビルディング合宿、年次総会、表彰式、入社や退職に伴う行事、企業特有の祝賀イベントなどだ。

 調査の一つでは、従業員にこうしたイベントでどのように感じたかを質問した。その結果、先行研究と同じように、複雑な儀式は従業員にとって同僚とつながっているという意識を強め、会社に対して肯定的な感情を高めることがわかった。ただし同時に、疎外感、不自然さ、十分に評価されていないという感覚、個人的な犠牲を払っているという感覚も抱かせていた。

 さらに、こうした肯定的および否定的な反応が、その後のエンゲージメントや行動にどのような影響を与えるかを調べるために、米国とドイツで2件の追加調査を実施した。いずれの調査も、儀式の後に数週間から数カ月間、その影響を追跡分析した。

 結果は初期の研究と同じように、イベントで肯定的な経験(意義のある社会的交流をした、リーダーに自分の業績を認められた、など)を報告した従業員ほど、その後のエンゲージメントが高く、同僚への協力的な姿勢が強まり、組織への肯定的な感情を共有しやすく、転職の意向が低くなった。ただし、否定的な経験(特定の社員グループが排除された、自分が十分に評価されていないと感じた、など)が多かった従業員には、こうした効果は見られなかった。

 結論は明確である。職場の儀式を肯定的な結果につなげるために肯定的な経験は不可欠だが、それだけでは不十分なのだ。毎年のホリデーパーティのような複雑な儀式を計画する際は、魅力的な会場や質の高い料理、楽しい雰囲気づくりといった要素が当然であり、非常に重要でもある。しかし、同じくらい重要なのは、従業員に個人的な犠牲を強いて参加させることや、彼らに感謝を十分に示さないといった否定的な経験を未然に防ぐことだ。それを怠れば、時間、労力、資金の投資が無駄に終わる危険がある。

チェックリスト

 次回の合宿や今後のオンボーディングイベントで、従業員が複雑な儀式を最大限に楽しめるようにしつつ、よくある否定的な経験を最小限にするにはどうすればよいだろうか。筆者らは一連の研究をもとに、効果を最大限に引き出せるイベントを計画する際に役立つ「すべきこと」と「してはいけないこと」のチェックリストを作成した。

すべきこと(Dos)

1. 会社の社会的つながりを強化する機会を設ける

 従業員が儀式の後に同僚とのつながりを強く感じた理由には2つの傾向があった。一つは、シフトや勤務場所が違うなどの理由でふだんは直接会わない同僚と交流できたこと。もう一つは、仕事以外の(個人的な)話題を共有できたことだ。イベントの開始時に、久しぶりに顔を合わせる同僚と自由に交流する時間を設け、構造化された活動に入る前に、仕事の話題から離れて近況を語り合える機会をつくる。

2. 意味のある特典を提供する

 イベントで組織が意味のある特典を提供した場合、従業員は感謝されている、評価されていると感じていた。質の高い食事やエンタテインメント、ささやかでも心のこもった贈り物は、従業員を大切にしているというシグナルになるだろう。最適な特典はどれか迷うなら、エビデンスに基づくアプローチを取ろう。調査に参加したあるリーダーは、従業員に予算を提示したうえで、着席式の食事、参加型アクティビティ、カジュアルな交流など複数の案から選ばせていた。