Fuse/Getty Images

リーダーの仕事は多岐にわたるが、社会的な問題や悲劇が起きた時、従業員が抱える感情の問題に対処することもまた、重要な役割である。感情の問題は繊細であり、即効性のある対応策が見つかるとは限らない中で、従業員をサポートするには、職場における「儀式」が欠かせないと筆者は主張する。本稿では、従業員が集まって悲しみに向き合う「タイム・トゥ・コネクト」の実践例を紐解きながら、儀式が従業員の心理的安全性と目的意識​、ひいてはパフォーマンスをも向上させる仕組みを解説する。

個人やチーム、企業の収益に与える影響

 リーダーは多大なプレッシャーにさらされている。社会的な問題に対処し、積極的なDEI(ダイバーシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉、インクルージョン〈包摂〉)戦略を維持し、さらには従業員が同僚とのつながりや自社のミッションとの一体感を常に感じられるようサポートしなくてはならない。

 しかも、従業員は自身の感情、それも重大なものから軽微なものまで職場に持ち込むのは当然のことだと考えているため、文化的なトラウマを抱えたり、衝突の渦中にいたりする従業員に対する支援も、リーダーの仕事に含まれる。

 これらの問題には、常に明白な対処法が見つかるとは限らない。リーダーが、繊細で感情に関わるトピックに対処する訓練や経験を積んでいない場合は、なおさらだ。そこで、従業員が期待するサポートを提供するための重要な方法の一つが「儀式」である。

 筆者は長年、職場における儀式が個人やチーム、企業の収益に与える影響について研究し、それを著書Rituals Roadmapにまとめた。この研究を通して、儀式の定義には、2つの重要な条件が関わっていることが浮かび上がった。

 1つ目は、儀式とは実用的な目的に留まらない行為であり、参加者が単なる作業を超えて、そこに意味を見出すことだ。たとえば、停電の際にろうそくを灯すのは儀式とはいえないが、日が沈む時間に電気を消してろうそくに火を灯すのは儀式となる。2つ目は、儀式の機会がなくなると、ひどく寂しい気分になるということだ。

 以下に紹介するのは、悲劇の進行中にリスクを取って対応し、時間の経過とともに、それが儀式となっていったある企業の事例である。その企業の取り組みに加えて、儀式が心理的安全性(Psychological Safety)と目的意識(Purpose)、そして最終的にはパフォーマンス(Performance)をも向上させる仕組みを紹介しよう。