GMは純粋に直感的な経営者には不向きな組織であるが、有能で合理的な人間には有利な環境を提供しているのだ。(中略)グループは必ずしも個人よりもすぐれた決定を下すとはかぎらない。むしろ平均以下の決定を下す可能性すらある。しかし、GMでは、記録によれば、われわれは平均以上の決定を下してきた、と私は考える。
──Alfred P. Sloan, Jr. , My Years with General Motors, 1963.(邦訳:アルフレッド P. スローン著、田中融二ほか訳『GMとともに』ダイヤモンド社、1967年、553~554ページ、ただし現在は絶版)
 
 CEOという仕事はとんでもなくすばらしい。(中略)常識はずれ、激しさ、楽しさ、ケタはずれ、狂気、情熱、終わりのない仕事、ギブアンドテイク、夜中の会議、すばらしい友情、極上のワイン、祝福、名門ゴルフコース、大仕事での果敢な決断、危機と重圧、試行錯誤の繰り返し、大成功のホームラン、勝利の興奮、敗者の屈辱。
──Jack Welch with John A. Burne, Jack: Straight from the Gut, 2001.(邦訳:ジャック・ウェルチ、ジョン A. バーン著、宮本喜一訳『ジャック・ウェルチ わが経営(下)』日本経済新聞社、2001年、243ページ)

20世紀を代表する経営者スローンとウェルチの違い

『GMとともに』『ジャック・ウェルチ わが経営』──記念碑的なこの2冊は、アメリカ企業の文化とダイナミックス、そして20世紀に事業組織がいかに運営、統率されてきたかを理解する際に必読の書である。ただし2冊の違い、さらには2人の著者の違いは著しい。

 ゼネラルモーターズ(以下GM)を率いたアルフレッド・P・スローンの特徴は、その章タイトル──「〈銅冷式〉エンジン」「安定化の時代」「アニュアル・モデル・チェンジ」「GMAC(GM販売金融会社)」──に表れている。挿画や写真も簡素であり、キャプションも「1897年型オールズ」「GM技術センター」といった具合だ。

 一方、ウェルチの自叙伝の章タイトルは、彼の好きな新聞『ニューヨーク・ポスト』の見出しのようだ。「工場爆破」「人材工場」「境界のないこと」「ゴルフについてひと言」といった具合である。

 有名な手書きメモのコピーに加え、国家元首──エリザベス女王、ミハエル・ゴルバチョフ、江沢民から過去3代のアメリカ大統領まで──と一緒に撮った写真、ビル・ゲイツやウォレン・バフェットなど、後世に残るフォーチュン100社の経営者たちと共に誇りに満ちた表情を見せるさまざまなスナップ写真も収められている。

 1950年代半ば、MIT(マサチューセッツ工科大学)で筆者はスローンと会った。彼は端正で控えめ、そして折り目正しい。自動車王というよりは最高位の僧侶のようで、20世紀前半の実業界きっての創造的精神を見事に覆い隠していた。だれかがスローンをファースト・ネームで「アル」と呼ぶ場面を筆者は想像できない。ジャックを「ミスター・ウェルチ」と呼ぶ人を想像できないのと同様に。

 ウェルチはせっかちで大胆、男性から好かれるタイプだ。だれかを気に入ったり感心したりすると、「イキがいい奴」というお得意のフレーズが出る。

 ウェルチは20世紀後半に、最も偶像視され、最も称賛されたCEO(最高経営責任者)だった。多くの伝記、そして『ビジネスウィーク』から『ヴァニティ・フェア』までありとあらゆる雑誌が、カバーストーリーで彼の業績を熱狂的に紹介した。『フォーチュン』も「世紀の経営者」ともてはやし、表紙で派手に取り上げている。