リーダーシップをめぐるさまざまな論争

 これから述べることは、リーダーシップを研究してきた学者の意見として聞いていただきたい。

 リーダーシップの研究者同士の論争は非常に盛んである。事実、リーダーシップをめぐる研究者の意見の食い違いは、以前より顕著になっているくらいだ。当節の学界は、学問分野や学部の細分化を主張する傾向が強く、ビジネスのリーダーシップに興味を持つ学者は、政治家のリーダーシップを研究する学者とは慎重に距離を置くことが普通である。

 そんな状況だから、リーダーシップ研究の分野にはコアになるカリキュラム(教育課程)も欠けているし、必読の文献と広く認められる書物がないのも、別段驚くべきことではない。

 もちろん、リーダーシップを研究するほぼすべての学者が、価値を認める書物も二、三はある。しかし、名著として広くだれにも認められるベスト10のリストなど作成できない。リーダーシップの研究者が共有しているのは、「リーダーシップについてスタンダードな文献リストなどありえない」という前提だ。

 リーダーシップは環境に左右される。特定の時代、状況、企業で機能したリーダーシップが、環境が変わっても機能するとは限らない。したがって、リーダーシップのすべての局面をカバーする書籍リストなど作成できるはずがないのである。

 だが、本稿で取り上げた書物は、いま述べた一般論が当てはまらない。ここで紹介する書物は、特定の、そして偶然のトレンドや出来事に対応して書かれたものであるが、そこで示される洞察は、リーダーシップの本質を射たものである。ビジネスにも政治にも当てはまり、中国でもアメリカでも国家を問わず通用する。時代を超越して21世紀の世界にも16世紀の世界にも等しく適用できる。

 リーダーシップ論は非常に特殊な分野であるが、どれも広くその価値を認められた書物である。それでも、表現形式や語り口はそれぞれ個性がある。それはリーダーシップを発揮する方法が人により異なるのと同様である。