辛い経験に基づいた新リーダー像の提起

 リスクの高い仕事を引き受けることなく、トップへの階段は昇れない。しかし、リスクの高い仕事のなかには、マイナス面だけが見えていて、プラス面が見えないものもある。

 ウイリアム・ピースの場合を見てみよう。周囲の反対を押し切って、彼は解雇する15人の従業員と向き合った。それは、当人が予想していたとおり、つらいものだった。15人の従業員は、嘆き、怒り、当惑している。そうした彼らの言葉に、ピースはじっくり耳を傾けた。

 彼らがある程度落ち着いたところで、事業が存続していくためには、解雇が必要であることを説明した。また解雇されるといっても、仕事には何の落ち度がないことも。こうしたことをピースは粘り強く何度も説明した。

 この話し合いは驚くべき結果を生むのだが、その詳細は読者自身がこの論文のなかで見つけてほしい。

 ただここでは、ピースの虚心な態度や情にもろいところが、弱さではなく強さの表れである、ということだけを強調しておく。

 1991年のピースの論文は、自らの経験を基にまとめられたもので、リーダー像に新たな一面を提起した。

 穏やかではあるが、余すことのない完璧な語り口で、武装したヒーロー的リーダー像を打ち壊し、それを血の通った人間に置き換えた。誤りを犯すこともあるが、虚心な人間であるからこそ、信頼され効果的なリーダーたりうる、と。