後継者の人選を誤る理由

 CEO(最高経営責任者)を含め、経営陣のきわめて重要な仕事の一つに「経営の継承」がある。しかし、次代のリーダーとして力を発揮しそうな人材を見抜くことは、やさしい仕事ではない。経営陣であれば、このことはすでによく認識している。

 またリーダーシップが、さまざまな分野できめ細かさを要する多面的な能力であることや、ある状況(たとえば赤字部門を黒字にする)で成功につながった資質が、別の状況(新事業を立ち上げる)では失敗の原因となりかねないことも、よく心得ている。

 このような自覚を持ったうえで誠実にことに当たっても、重要なポストの人選をしくじり、業績面でも、自らの精神面においても痛みを覚える経営者は少なくない。

 筆者たちは、多数の企業に対して、重責を担うポストで成功しそうな人材を予測するというコンサルティングを実施してきた。その経験から言うと、CEO、社長、副社長など経営陣は、人選に当たって偏った情報、歪んだ情報に頼ってしまうケースが多い。

 特によく見られるのが、心理学でいう「ハロー効果[注]」(halo effect)、つまり一部の特性を過大評価し、他の特性を過小評価する心の動きである。

 たとえば、ある人物の業務上の手腕や幅広い職務経験に目を奪われて、リスクを極端に避ける性向を見逃してしまう、などである。

 さらに悪いことに、次のトップ候補者について、偏りなく的確に評価するプロセスをしっかりと定めている企業はまだまだ少ない。伝聞や噂、いいかげんな観察、不十分な情報で評価を下す例があまりにも多いのである。

 筆者たちはこのような問題を克服するために、複数の人間がグループとなって候補者を品定めする評価プロセスを開発した。評価グループを形成するのは候補者の直属の上司を始めとする数人の管理職で、長期間、いろいろな状況下で、候補者の行動を直接目にしてきた人たちである。