危機に瀕した会社を再浮上させるために

 ネットワーク・ソフトウエア・メーカーであるノベルは、この18年間に業界の頂点を極めた後、奈落の底に沈むという困難な道を歩んできた。大企業のなかでこうした経験を持つ企業はそう滅多にあるものではないだろう。

 1983年にユタ州プロボで誕生してから、ほんの数年で同社はLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)の市場を席巻した。しかし90年代半ばに、企業買収や製品開発にいくつかの失敗があったため、97年4月には経営危機に陥った。

 サン・マイクロシステムズ(以下サン)のCTO(最高技術責任者)として名声の高かったエリック・シュミットがノベルの3人目の会長兼CEO(最高経営責任者)に就任し、業界を驚かせたのは、その時だ。その責務はノベルの財務基盤を回復し、事業の核である技術力の強化に集中し、インターネット・ソフトウエアとネットワーク・サービスの分野で主導的な地位を確立することだった。

 シュミットを囲む環境は、どう見ても気持ちを萎えさせるようなものだった。マイクロソフトが、基本ソフト〈Windows NT〉でネットワーク市場に積極的な競争を展開していたのとは対照的に、ノベルは時代遅れの製品と在庫の山に囲まれていた。顧客は苛立ち、マスコミは「ノベルはもうおしまいだ」と報じ始めていた。

 しかし、シュミットはコストの削減、不採算部門の売却、新製品の導入をうまく組み合わせて会社に転機をもたらし、98年には黒字体質に戻すことができた。

 だが好況は長続きしなかった。多くの技術志向企業と同様に、ノベルは需要の低迷に苦しんでいる。

 そして2001年の3月には、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ(以下CTP)を買収し、同社のCEOであるジャック・メスマンをノベルのCEOに任命すると発表した。シュミットはノベルの戦略責任者として、会社の再転換を目論んでいる。

 この仕事は彼にはうってつけのように思われる。今回のインタビューは2001年2月にカリフォルニア州サンノゼにあるノベルの役員室で行われたものであるが、そのなかで彼は、かつて誇り高かった会社を再生させ、さらに新たな困難に立ち向かうという挑戦について熱っぽく語った[注1]。

 彼は、状況が悪化した時には慎重になりすぎないことが大切であると言う。むしろ最も創造的な人たちにチャンスを与えて、その直感を生かすよう、奨励すべきだ。さもなければ「恐怖の文化」に自らを陥れ、将来についての陰気なビジョンしか描かなくなる、とも述べる。

 現在のビジネス社会は、予想しがたく、競争相手は常に変化している。すべての経営者は、業績が突然悪化するのではないかと懸念している。エリック・シュミットの経験は警告を与えるだけでなく、未知の世界を開拓する道も示唆している。

痛みを伴う改革を迅速に断行する

 HBR(色文字):あなたが97年にサンを辞めてノベルに入社された時は衝撃が走りました。なぜノベルに移られたのですか。

 また、当時ノベルはどんな状態だったのでしょうか。

シュミット(以下略):私はサンでの14年間にさまざまなマネジャーの地位を経験し、最高の地位であるCTOにまで登りつめました。何か新しいことにチャレンジする準備ができていました。時間が経つにつれ、私はネットワーク技術に魅了され、ノベルは私に最適のように思われました。

 ノベルに移る前に事前の勉強はしていました。コンサルティング会社のマッキンゼーが監査を行い、ノベルは豊富な資金を持っていると報告してきました。