GAFAM中で営業利益率No.1、マイクロソフトはなぜ強いのか
Jean-Luc Ichard/iStock
サマリー:GAFAMと呼ばれるビッグテックは、時価総額世界ランキングで常に上位に位置するテック業界の覇者である。その中でもとりわけ営業利益率が高いのが、近年では生成AI領域でもプレゼンスを高めているマイクロソフトだ。... もっと見る厳しい競争環境下にあって、なぜマイクロソフトは高い利益率を維持できているのか。財務分析とともに2回にわたって同社の強さの秘訣を探る。 閉じる

マイクロソフトの主力事業は何か

 アップルといえばiPhone。アマゾン・ドットコムといえばECサイト。アルファベット(グーグルの親会社)やメタ・プラットフォームズ(Facebookの運営会社)は、広告ビジネス。では、同じくビッグテックの一角を占めるマイクロソフトの主力事業は、いったい何だと思いますか。

 1995年以降のマイクロソフトの大躍進をご記憶の方にとっては、マイクロソフトと聞けば「Windows」OSや、WordやExcelといったアプリケーションを備えた「Office 365」などのイメージが強いかもしれません。あるいは、ゲーム好きなら家庭用ゲーム機の「Xbox」、SaaSビジネスの方ならクラウドプラットフォームの「Azure」などを連想するかもしれません。ChatGPTを運営するOpenAIとは早くも2019年から提携し、今日のAI全盛時代の幕開けに一役買っています。

 このように、近年のマイクロソフトはかつてのイメージとは大きく異なる事業でも注目を集めることが多く、あらためて「マイクロソフトの主力事業は何か」「どのような事業構成になっているのか」と問われると、すぐには答えられないという方も少なくないのではないでしょうか。

 実は、主要ビッグテックの中でも事業構成が最も分散しているのがマイクロソフトです。実際、売上構成で見ると、冒頭で述べたアップルはiPhoneが5割強、アマゾンはEC関連が6割強(ただし、利益ではアマゾン ウェブ サービス〈AWS〉が6割弱)、アルファベットは8割弱が広告、メタも広告が9割と、「主力事業はこれ」というのが非常にわかりやすくなっています(図表1)。

図表1
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出所:アップル 2024年9月期(FY2024)Form-10-K、アマゾン 2024年12月期(FY2024)Form-10-K、アルファベット 2024年12月期(FY2024)Form-10-K、メタプラットフォームズ 2024年12月期(FY2024)Form-10-Kより筆者作成。

 それに対してマイクロソフトは、最大の構成比率を占めるProductivity and Business Processes(PBP事業)でも43%と、他のビッグテックに比べると特定の事業に一極集中というわけではありません(図表2)。

図表2
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出所:マイクロソフト 2025年6月期(FY2025)Form-10-Kより筆者作成。

 また、次回詳しく見ていくようにこの事業ではMicrosoft 365(Word、Excel、TeamsなどのSaaS)、LinkedIn、Dynamics365(CRMやERP)など複数の製品を扱っており、何が主力製品なのかがわかりにくい事業ポートフォリオになっています。 

 現在、世界の時価総額ランキングで1位に位置するのは、世界で初めて「4兆ドル」いうマイルストーンに到達したエヌビディア(NVIDIA、本連載の第1回第2回を参照)ですが、マイクロソフトはアップルやアルファベットを抑え、時価総額3.87兆ドル(2025年8月13日時点)でエヌビディアに続く2位につけています(図表3)。

図表3
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出所:“Largest Companies by Marketcap,” CompaniesMarketcap.com(2025年8月13日時点)を元に編集部作成。

 マイクロソフトが株式市場からこれほど高い評価を受けている理由は、どこにあるのでしょうか。そこで今回は、時価総額世界2位を誇るマイクロソフトについて、財務の観点から事業を分析しながら、その競争優位の秘密について考察していくことにします。

近年の営業利益率は高位で安定

 まずはマイクロソフトの15年分の売上高、営業利益、そして営業利益率を時系列で見てみましょう(図表4)。

図表4
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出所:マイクロソフトの各年のForm10-Kより筆者作成。

 売上高と営業利益については、FY2017(2017年6月期。以降も同様)以降は右肩上がりで成長しています。営業利益率はFY2015を境に上昇に転じ、直近のFY2025は46%。過去5年間の平均営業利益率は43%になります。

 この利益率はどのくらい高いのでしょうか。GAFAMと称される主要ビッグテックの過去5年の平均営業利益率を比較すると、図表5の通りとなります。

図表5
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出所:アップル FY2024 Form-10-K、アマゾン FY2024 Form-10-K、アルファベット FY2024 Form-10-K、メタプラットフォームズ FY2024 Form-10-K、マイクロソフト FY2025 Form-10-Kより筆者作成。

 世界の時価総額トップ10に名を連ねるビッグテック5社の中で唯一マイクロソフトだけが、過去5年の平均営業利益率が40%を超えています。営業利益の観点で、直近だけで見れば、2025年1月期のエヌビディアの営業利益率は62%とGAFAMのビッグテックよりも高く出ています。