デジタルディスラプションを生き抜く有能なリーダーが持つ二面性
Illustration by Sandra Navarro
サマリー:デジタル技術が急速に進化しているにもかかわらず、旧来の慣行に縛られたチームを率いるという難題に直面しているリーダーは少なくない。そこで筆者らは同様の悩みを持つリーダーたちを研究し、リーダーシップに関する「7つの緊張」のバランスを取ることが、その有効性を測る指標になることを突き止めた。本稿では、これらの緊張関係の中でも特にインパクトが大きく、リーダーが持つべき二面性である「探鉱者」と「採掘者」の役割について詳説する。

多くのチームがデジタルディスラプション追いつけていない

 2020年、製薬会社のエグゼクティブだったコンラッド(仮名)は、大きな難題に直面しているとのことで、筆者らに相談してきた。彼は、デジタルツールを使って創薬と開発のプロセスを加速するチームのトップに就任したばかりだった。

 技術的な問題も多々あったが、もっと深刻なのは、リーダーシップ面の課題だと、コンラッドは考えていた。チームを取り巻く技術的な環境は急速に変化しているのに、彼のチームは時代遅れの慣行に縛られて、「直線的で、スピードが遅く、面倒な手続きや仕組みに身動きが取れなくなっている」という。

 彼が相談したいことは明白だった。デジタルディスラプション(デジタル技術による破壊的イノベーション)の時代にチームをうまく統率するために、リーダーは何をすればよいのか、ということだ。他にも数十人のリーダーが、同じ悩みを抱えて筆者らのところにやってきた。そこで数年がかりの研究に着手することにした。

 筆者らは、2020年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に掲載された論文で、エグゼクティブは伝統的なリーダーシップスタイルと新しいリーダーシップスタイルの間にある7つの緊張に対処する必要があると指摘した。そしていま、生成AIのような新しい破壊的なテクノロジーが牽引する時代に、これらの緊張はどのようになるのかを調べることにした。

 具体的に知りたいと考えたのは、デジタルディスラプションの時代において、特定の緊張がリーダーシップの有効性を予測するための指標になるかどうかだ。数十社へのコンサルティング活動と、欧州最大級の多国籍企業のリーダーを徹底的に調査した結果、筆者らが出した答えは、「イエス」だった。

本当に重要な行動とは

 筆者らは、2022~2024年、約300人のリーダー(部門や地域の異なる役員と経営幹部)に対して、360度評価を実施した。また、7つのリーダーシップスタイルの間にある緊張関係に関連する具体的な行動(図表にその例を示した)について質問を行った。その例を次の表に示そう。

 調査対象となったリーダーは、自己評価をすると同時に、直属の部下や同僚、上司、顧客の評価を受けた。また、デジタルの側面が強い状況におけるパフォーマンスについても質問した。

リーダーが正しく対処しなければならない緊張関係

 デジタルディスラプションをうまく切り抜けたリーダーは、伝統的なリーダーシップと新しいリーダーシップの計14の行動すべてを活用していることがわかった。ただ、飛び抜けてインパクトの大きい緊張関係が一つあった。それは採掘者と探鉱者の関係だ。

 探鉱、すなわち探るという行動は、新しいリーダーシップスタイルの一つであり、内外の脅威やチャンスに好奇心を持つことがカギとなる。筆者らの研究では、その行動には「直近の環境や職務を超えて、組織内で何が起こっているかを認識する」ことや「外部環境と、それが組織内に与えうる影響を意識する」ことが含まれる。この側面で高評価を得たリーダーたちは、「インスピレーションを求めて社外に目を向ける」と説明された。あるリーダーは、「自分の職務の範囲内でも外でも、何が起こっているかに常に好奇心旺盛に見える。それは彼女がよく質問をしたり、橋渡し役を果たしたりすることに表れている」と評された。別のリーダーは、「担当領域内や、業界外の最新情勢を常に把握している(中略)このため将来起こりうることについて事前に計画ができている」とコメントを受けた。

 これとは対照的に、伝統的なリーダーシップの振る舞いである「採掘者」は、あるトピックや方向性を深掘りし、人材や資金、あるいは時間などのリソースを投資することを決定する。これには「潜在的な価値があるとの判断に基づき、何らかのコンセプトやテクノロジー、またはアイデアを追求するタイミングを知っている」ことや、「あるアイデアの価値や可能性を最大限に引き出すために『掘り下げる』」といった行動が含まれる。

 筆者らの調査で、あるリーダーは、「何かに詳細まで関与して、引き続き注目する必要があるかどうかを把握している」と評された。この側面で高い評価を得た別のリーダーは、「調査や分析に深い関心を持ち、(顧客)の個人的な経験にまで関与してビジネス上の知識を構築する。チームが真に関心を示した時は、ブレインストーミングを実施する」と評された。

 採掘者タイプの強力なリーダーになるためには、結果が出るまで一つのアイデアを発展させ、新たなチャンスが訪れても、そのアイデアを捨てる誘惑に抵抗できる自己規律を持つことが必要だ。優れた探鉱者であるものの、採掘者の側面はさほど強くないあるリーダーは、「オープンマインドで知的な人で、新しいことに好奇心があり、それを迅速に理解する能力がある」が、「詳細を学ぶ」のはあまり得意ではないと同僚に評された。このリーダーは、あるアイデアが潜在的な価値を示すまで育てることに、十分時間をかける必要があった。この能力は、持続的な集中力、揺るぎない献身、コンセプトを育てることへの純粋な関心などのコアスキルを活用する。

広げてから、深める

 筆者らの研究では、デジタルディスラプションを最もうまく切り抜けたリーダーは、探鉱者と採掘者の行動を連続したステップとして実践していた。本人たちはこれを、「幅広く見て」何があるかを見極めて、どこにリソースを投資するかを決定し、それから「深く掘り下げて」投資するプロセスだと説明した。さらに、「ひと息入れて」、環境が変化し、新たな探鉱が必要になっていないかどうかを見極める。

 生成AIの時代に、探鉱と採掘の間の緊張に対処することは、これまでになく重要になっている。生成AIのサイクルは、デジタルの波をはるかに上回るペースで展開しており、先駆的な人とゆっくり構えている人の成果の差はすでに拡大している。「探鉱」に失敗すれば、遅れを取ったり、機会を完全に逃したりするおそれがある。また、「採掘」に失敗すれば、価値を置き去りにしたり、サポート不足や、製品とテクノロジーのミスマッチによるプロジェクトの「早期の失敗」を招いたりするおそれがある。一方、AIを正しく利用することで得られる見返りは、非常に大きくなる可能性がある。

 では、リーダーが探鉱者と採掘者の両方の役割を果たすようにするためには、組織はどうすればよいのか。

 一つのアプローチは、探鉱者と採掘者の両方になるためのスキルと行動を身につけられるように、リーダーを訓練することだ。たとえば、あるリーダーはすでに熟練採掘者だったが、強力な探鉱者に求められるスキルである、短期的な状況を超えて考える能力を身につけるのに苦労していた。そこで筆者らは、このリーダーが自分に対して設けた精神的な制約から抜け出せるように、小さいながらも強力な習慣を身につける手伝いをした。たとえば、自分の中核的な専門領域外のトピックについて1日1本は記事を読む、同じ組織の人間ではないが関連業界の人と月に2回は会合を持つといったことだ。

 意図的に探鉱者と採掘者の両方をチームに配置するという方法もある。探鉱者は外に出て、周囲の環境に内在する機会と脅威を発見できる。採掘者はその発見を受けて、そこに深く投資できる。

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 筆者らの研究では、最も有能なリーダーは、決定的に重要な二面性を示すことがわかった。それは新たなトレンドやテクノロジーを幅広く読み取る好奇心と、有望な方向性を最後まで深く追求する自己規律だ。彼らは、物事を最後まで追求せずに、新しいイノベーションを追いかけたりしないし、狭い視野にこだわって、地平線上にある画期的なチャンスを逃すこともない。

 製薬会社のコンラッドのチームは、従来の体系的なアプローチを完全に捨てるのではなく、新たな可能性を注視する探鉱活動によってそれを補完することにより、前進する道を見つけた。探鉱者と採掘者のバランスを意識的に取れば、かつては硬直的だったプロセスは適応力のあるシステムに変わり、デジタル時代の機会を見つけて実現することができる。


"What It Takes to Lead Through Digital Disruption," HBR.org, September 11, 2025.