職場で失われた「つながり」を取り戻す5つの方策
Illustration by Skizzomat
サマリー:孤独が職場に浸透し、公衆衛生上の危機となりつつある。ハイブリッドワークの普及で自然な交流が失われ、テクノロジーを介した浅いやり取りが孤立を深めている。この孤独は、信頼とチームの結束を静かに崩し、生産性... もっと見る低下や離職率上昇を招く深刻な脅威である。リーダーはこれを個人の問題ではなく戦略的課題と捉え、意図的につながりを重視すべきだ。本稿では、社会的結束や有意義な対人関係を業務プロセスに組み込むための5つの具体的な取り組みを紹介する。 閉じる

孤独によって職場が変化しつつある

 グローバル展開するテクノロジー企業の上級副社長として長年経験を積んできたシャロンは、自分が講演を聞いて感情を揺さぶられるとは思ってもいなかった。だが、元米公衆衛生局長官のビベック・マーフィー医学博士の講演で、孤独が公衆衛生上の危機となっている状況について聞いた瞬間、何かがひらめいた。

「目新しい話だったわけではありませんが」と、彼女は筆者らに語ってくれた。「突然、至るところにその証拠が見えてきたのです──チーム内にも、職場文化にも、自分自身の中にさえも」

 シャロンは、それまでひそかに気になっていたことを列挙した。雑談が自然に始まりにくい、スラックのチャンネルが盛り上がらない、新入社員が居場所を見つけられない、バーチャル会議の参加者がカメラをオフにし、交流しようとしない

 なかでも、少し前に実施した職場文化に関する調査のある回答が、特に心に引っかかっていた。「ITチェックインが楽しみです。私が元気かどうか誰かが尋ねてくれる唯一の機会だから。本来なら1カ月で一番退屈な会議のはずなのに、自分が人間らしさを感じられる場はそこしかないのです」

 この一文が、シャロンの心の琴線に触れた。しかも、それはシャロンに限ったことではない。筆者らの元には、業界を超えて、多くのリーダーから同じような声が届いている。社員の口数が減っている、協働作業を事務的にこなしている、新入社員が主体性を発揮しようとしない……。こうした変化を文化的な摩擦やパンデミック疲れのせいだと片づけるのは簡単だが、実際にはさらに深い潮流を示唆しているのだ。

 孤独が社会を変容させつつあるのだとすれば、明確に見えているかどうかはともかく、職場のチームにもすでに孤独による変容が生じ始めている。孤独は、業績とイノベーション、そしてレジリエンスの基盤である信頼とチームの結束を静かに崩していく。

 リーダーは戦略的な責務として、つながりを重視すべきだ。そうすることで、多大な戦略的優位性を手に入れ、より健全で、より人間らしい職場の設計者となる機会を得られる。

現代の働き方に受け継がれる断絶の危機

 広範な社会的・技術的変化を背景に孤独感が高まっていることは、データを見れば明確だ。かつては廊下での雑談や会議後の立ち話によって自然につながりが生まれていたが、ハイブリッドワークやリモートワークによってそうした機会は失われてしまった。こうした交流は一見、他愛もないことに思えるが、かつては人々の「結合組織」として機能していた。これらをデジタルプラットフォームで再現するのは容易ではない。

 さらに、有意義な交流がテクノロジーを介した浅いやり取りに取って代わられたことも、問題をいちだんと深刻化させている。何十件ものメッセージにリアクションボタンを押してもなお、深い孤独を抱え続ける人もいる。

 リンクトインのようなアルゴリズム駆動型のプラットフォームは、社会的なつながりを広げ、達成感や充実感で満たされるべきだという期待を盛り上げる。だが、見かけ上のつながりと実際のつながりのギャップが広がるにつれて感情面の不協和音が増し、人々は本音を共有しようという意欲を失い、それが孤独感をさらに強める結果となる。