伝説のコストコ創業者が語る、成長し続ける企業をつくる秘訣
HBR Staff/Department of Labor
サマリー:偉大な創業者が去った後、失速する企業は少なくない。だが、コストコはその例外だ。小売業のレジェンドともいわれた共同創業者ジム・シネガルが2012年にCEOを退任して以降も、同社は着実に成長を続け、他の小売業が... もっと見る苦境にあえぐ中で際立った存在感を保ってきた。その持続的成功の原動力となっているのが、シネガルが企業文化に深く根づかせた倫理規定と、5つの揺るぎない信念である。本稿では、シネガルがどのようにしてこの哲学を企業DNAに刻み込み、リーダー不在でも揺るがぬ強さを築いたのかを紹介する。 閉じる

コストコはトップ交代後も成長を続けている

 歴史を振り返ると、創業者や、会社を成功に導いた初期のリーダーの退任や死去を境に勢いを失った優良企業は数多い。フォード・モーターやウォルト・ディズニーのほか、1985年にスティーブ・ジョブズを追放した直後のアップル、ヒューレット・パッカード、スターバックスなど、枚挙に暇がない。

 しかし、コストコは例外である。2012年1月に共同創業者のジム・シネガルがCEOを退任して以降、CEOは2人交代している。同社はトップが交代しても、事業運営の卓越性と誠実さを軸とする組織文化を維持し、多くの小売チェーンが苦戦もしくは消滅する中でも繁栄し、成長し続けている。

 本稿では、シネガルが自身の強い信念と、それに根差した倫理規範をどのようにしてコストコのDNAに埋め込んだのかを探る。そこには、あらゆる規模の企業リーダーにとっての教訓がある。

筆者がコストコに注目するようになった経緯

 筆者は、25年以上にわたり、数多ある最前線のサービス企業が陥る悪循環について研究してきた。離職率の高さが、サービス品質や生産性の低下を引き起こし、それがさらに人材への投資を困難にするという循環である。筆者らはこの連鎖を断ち切った低価格小売企業4社を調査した。これらの企業は、人材への投資と、高い生産性とモチベーションを生む業務を組み合わせることで、事業運営の卓越性を追求していた。筆者はこのアプローチを「よい職場戦略」(Good Jobs Strategy: GJS)と名づけた。以来、小売、外食、コールセンターなどの業界でGJSを採用する企業が出てきている。

 その低価格小売4社のうちの1社が、会員制倉庫型小売のコストコであった。同社の運営モデルについては、これまで『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)の記事を含めて数多く執筆しており、ジム・シネガル本人とも深く交流を持つようになった。彼は小売業界のレジェンドだが、本人はそのように呼ばれることを好まない。MITスローンのMBAの授業で、彼はいつも筆者の教え子たちにこう語っている。「自分は非常に運がよかったと思っている。事業で成功したということは、運に恵まれたということだ。そんなこともわからない人は愚かだ」と。

 シネガルにとって、コストコの成功は、一人の力で成しえたことではない。社内のあらゆる階層の人々のアイデアによって支えられてきた。彼は小売業の革新者、ソル・プライスの下で24年間、フェドマート(FedMart)とプライスクラブ(Price Club、1993年にコストコと合併)で働き、自分が知っていることはすべてプライスに教わった、と感謝する。コストコの創業時の幹部10人のほとんどがフェドマートかプライスクラブの出身であり、彼らもまたプライスから受け継いだ倫理観の基礎を持ち込んだ。

 シネガルはいつも学生たちに、ビジネスは金儲けのためだけにするのではない、と教えている。ビジネスは社会契約に対するコミットメントであり、その中身はコストコの倫理規定(Code of Ethics)に明文化されている。

コストコの倫理規定

 シネガルと共同創業者のジェフリー・ブロットマンは、最大ではなく最高の小売企業を目指した。「最高」が何を意味するかが明確になったのは、意外な人のおかげだった。州の調査官である。1983年、ワシントン州でビールとワインの販売免許を申請したコストコは、数カ月にわたる煩雑な手続きに悩まされた。調査官はまず、「クラブ」という言葉、次に「ホールセール」という言葉を問題視し、さらには看板を「5フィート先の壁」に移動することを要求して、30日間の公告期間を最初からやり直させた。

 この時、シネガルは悟った。調査官は、自分たちの異色のビジネスモデルに懐疑的なあらゆる人々の代表なのだと(「買物客から会費を取るなんて、そんな馬鹿な話があるか」)。そこでコストコは、想定されるあらゆる反対意見を克服する道を選んだ。業界最高水準の返品保証を提供し、商品と会員制度に対する100%の満足保証を行い、規格外品やB級品は一切扱わず、製品を売り込む際に最上級表現を使うことも避け、すべての仕入れ上の利益を顧客に還元する方針を決めた。何よりも重要なのは、シネガルの言葉を借りれば、「従業員を犠牲にして儲けていると言われない会社にする」ということである。