AI時代の不安をリーダーシップの力に変える
Illustration by Monika Jurczyk
サマリー：生成AIの急速な台頭に不安を覚えるのは、人間の神経系から見ても自然な反応だ。だが、その不安をていねいにひもとけば、リーダーとしての力に変えられる。本稿では、AIが不安を生む3つの要因を説明したうえで、感情をうまく扱い価値観に基づいて行動するためのステップを紹介する。

なぜAIはストレスをもたらすのか

　もし21世紀の資本主義に一つの原理があるとしたら、それはイノベーションが支配し、破壊的創造が進歩を推進するということだろう。たしかに、イノベーションは人を驚嘆させる。だが同時にストレスをもたらす。本来、破壊という行為は不安を生むものだ。突然、私たちは変化を求められ、未知の世界に飛び込まされるからだ。

　生成AIは、私たちが一生のうちに出会う最も破壊的なイノベーションの一つだ。それが生活を向上させるにしろ、仕事の大部分を根底から覆すにしろ、規模とスピードの両面でストレス要因をもたらしている。だから、組織のAIトランスフォーメーションが強い感情を喚起することは不思議ではない。

　筆者が接する大半のリーダーは、個人生活や職場生活で日常的にAIを使用しており、AIが人間をルーチン作業から解放して、戦略や創造性、人とのつながりに集中させる潜在能力を持つことを理解している。AIを一種の同伴者やコーチとして頼るようになった人も少なくない。「もはや真っ白なページを見つめて悩む必要はないのです」と、ある最高戦略責任者（CSO）は嬉しそうに言った。

　その半面、大半のリーダーは、AIがこれまでにない形で、ホワイトカラーのプロフェッショナルに脅威を与えているのを感じている。AIに一定の不信感を抱く人も少なくない。その不信感とは主に、まだ技術的に対応できないと考えている方法でAIトランスフォーメーションを実行するよう求める会社の命令に対して向けられている。リーダーたちは、このツールについてさまざまな意見や不安を抱えるメンバーで構成されたチームを率いている。そして、AIが導入されたら、そのチームが意欲的に、足並みを揃えて、役割を果たし続けられるよう導くことを期待されているのだ。

　だから、リーダーたちは不安を感じている。あなたもそうかもしれない。こうした急激な変化の時には、自分の不安を一つひとつ取り出して分析することが、非常に大きな力になることがある。本稿では、まずAIがなぜ不安を喚起するのかを探る。そのうえで、あなた自身の感情と価値観に名前をつけて分析するためのツールを共有する。そこでの発見だけでは、AIが組織や社会にもたらす流れを変えられないかもしれない。だが、たとえ先行きが不透明な時でも、自分がどういう人間であり、どのようにリーダーシップを発揮し行動したいのかを明確に理解する力が得られるだろう。

AIへの不安を理解する

　AIに不安を覚えるのは不合理なことではない。むしろ、非常に合理的な反応だ。人間の神経系は、突然の変化や察知した脅威に反応するようにできている。人間はコントロールができなくなったり、先の見えない事態に直面したりすると、ストレスや不安を感じる。体には脅威に対する反応が組み込まれていて、アドレナリンやコルチゾールなどのホルモンが大量に分泌し、次の行動に備える。すなわち、逃げるか、戦うか、それとも凍りつくかだ。