組織文化の変革を実現する、行動科学に基づく4つのステップ
Illustration by Diana Bolton
サマリー:企業は従業員に対する研修や教育に巨額投資を行っているが、その大半が業績向上に結びついていない。そうした現状に対し、筆者らが従業員に有意義な変化をもたらす策として提示するのが、行動科学に基づいた「4Tモデル」だ。本モデルは、ターゲットの選定、変容理論の構築、適切なタイミングでの介入、厳密な効果検証の4ステップで構成される。アストラゼネカなどの実例でも、些細な行動への介入が組織文化や採用に劇的な成果をもたらすことが証明された。本稿では、4Tモデルの具体的な構成要素と、それを実務で機能させた実験を紹介する。

従業員教育に対する巨額投資の大半が業績向上に結びついていない

 リーダーシップ、公正な意思決定、高いパフォーマンス、AI導入に至るまで、職場におけるほぼあらゆる課題の中心には行動がある。では、組織はどのように行動へ働きかければよいのだろうか。

 多くの人事部門やリーダーシップチームは、直観的なモデルに従っている。教育やコミュニケーション施策で情報を提供し、意識づけを行って、研修や開発プログラムで能力を身につけさせる。これは一見すると、すきのない戦略に思える。結局のところ、変化が自分にとって有益だと理解し、その変化を実現する能力を与えられれば、変化は確実に起きるというわけだ。

 しかし残念ながら、現実はそうはいかない。その結果、資源が大きく浪費され、影響力を生み出す機会が失われている。2012年のワーキングペーパーによれば、米国企業は研修と教育に年間1642億ドルを費やしているが、こうした巨額投資の大半が個人の行動変容や組織パフォーマンスの改善に結びついていないという。

 筆者らはこの5年間、あるモデルの設計と検証を進めてきた。これは筆者の一人であるエルファーが設立した行動科学の実践機関モア・ザン・ナウと、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)、ハーバード・ケネディ・スクール、エクセター大学、シカゴ大学ブーススクール・オブ・ビジネスの研究者(筆者のシラジとチャンを含む)との共同研究である。

 アストラゼネカやネイションワイド・ビルディング・ソサエティなどの組織と連携して研究を実施したほか、『サイエンス』誌や『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル』誌などに論文を発表し、現実の職場で従業員と組織の双方に実証可能な成果をもたらしてきた。本稿では、筆者らが「4Tモデル」と呼ぶアプローチの構成要素と、それを実際に機能させた実験を紹介する。

4Tモデル

 本稿で提案する行動変容の科学的モデルは、4つのステップから成る。第1に、ターゲット(Target)となる具体的な行動や意思決定、成果を選択する。第2に、変容の理論(Theory)を構築する。第3に、適切なタイミング(Timely)の介入を設計する。第4に、効果を厳密に検証(Test)する。

1)ターゲットとなる具体的な行動や意思決定、成果を決める

 ターゲットとなる行動を決めることは、このモデルにおいて最も簡単であると同時に、最も難しい部分でもある。簡単な理由は、イノベーション、インクルージョン、高いパフォーマンスといった文化的な目標に関連する行動が数十件、場合によっては数百件あり、そこから選べるからだ。

 一方、難しい理由は、最大のインパクトをもたらす行動を、容赦なく優先順位づけしなければならない点にある。理想としては、組織のデータ基盤を活用して洞察を掘り起こし、仮説を立てる必要がある。この作業は、行動科学者とピープルアナリティクス(人事分析)のチームの協働で進めるのが最も効果的だ。筆者らとHRチームの共同研究でも、ピープルアナリティクスのチームはしばしば重要な役割を担った。

2)変容の理論を構築する

 変えたい具体的な行動を特定したら、その行動をどのように変えるかという理論を構築する。これは反復的なプロセスになることが多い。ステークホルダーや従業員と対話をして、変化を阻む障壁を特定し、行動変容に関する科学文献から示唆を得る。近道はほとんどない。医師が診断を下すのと同じように、みずから見立てを行わなければならない。

3)適切なタイミングの介入を設計する

 タイミングは、このモデルにおいて明らかに重要だが、あまりに活用されていない原則でもある。ターゲットの行動と変容の理論を特定したら、重要な局面で──つまり、人々が行動する機会がある時に、介入を設計して実施しなければならない。たとえば、目の前に試せるツールがある時にAIの利用を促す、マネジャーが評価を検討している時に業績評価の捉え方を変えるように促す、上司が部下との日常会話で実際に使える簡潔なガイドラインを用意する、といった介入がある。

4)効果を検証する

 ここまでの3ステップで、優先すべき行動を特定し、その行動を変える理論を構築し、介入のタイミングと場所を明確にした。続いて、その介入が、あるいは複数の選択肢のうちどの介入が、実際に改善につながるかを検証する。可能ならランダム化比較試験を用いて、重視する成果に介入が与える因果的影響を正確に推定したい。