今日的な「制御不能な変化」に対応するためのリーダーシップ
HBR Staff
サマリー:今日起こっている「変化」は、量の増大と重層化、スピードの加速と終わりのない継続性、相互依存性、そして外部要因に左右される予測不能性が重なり合い、これまで以上に対応が難しくなっている。ガートナーはこれを「制御不能な変化」と呼ぶ。こうした環境では、個別の変革ごとに対応する従来の手法は限界を迎えつつある。本稿では、変化を日常業務として扱うアプローチを手がかりに、その対応策を探る。

「変化」を変化させる4つの要因

「カオス」「破壊的」「コントロール不能」「打ちのめされる」

 リーダーが今日の変化を表現するこうした言葉は、不安を呼び起こす。企業幹部は複雑な状況の中で変化をリードすることに慣れているはずだが、経験豊富なリーダーでさえ苦戦しているようだ。未来への意欲的なビジョンで従業員を鼓舞するという典型的な手法は、もはや通用しなくなっている。

 というのも、リーダーや組織が完全にコントロールできない形で、変化そのものが変化し続けているからだ。ガートナーでは、この状況は4つの要因が重なり合った結果であると見ている。

・変化が増大しているだけではなく、次々と積み重なるように発生している。

・変化のペースが速まっているだけではなく、具体的にいつ始まって、いつ終わるのかが不透明なまま継続している。

・変化の規模が拡大しているだけではなく、複数の相互依存関係が存在している。たとえば、一つのテクノロジーを導入しても他のテクノロジーと適切に統合できないことがある。

・変化が予測不能であるだけではなく、外部要因によって引き起こされている。テクノロジー、政治、経済的な不確実性、社会動向など、あらゆる方面から影響を受ける。

 筆者らはこれらを「制御不能な変化」と呼ぶ。リーダーはこの環境の中で、必要な変革を推進するために苦闘している。世界各地のリーダー980人以上を対象とした2025年3月のガートナーの調査では、中~上級レベルのリーダーのうち、自身の直近の変革の取り組みをスケジュール通りに、かつ従業員のエンゲージメントやパフォーマンスを保ちながら実施できた人は32%にすぎなかった。

 従業員がリーダーの取り組みに対してますます懐疑的になっている時代にあって、リーダーたちは制御不能な変化に対処すべく尽力している。ガートナーの2025年4月の調査では、世界各地の従業員2900人のうち79%が、自社に変化を効果的に進める能力があるとは信じていなかった。また大多数の人が、自社は過去の変革における意思決定の質が低く、今後も成功する可能性が低いと考えていた。

 このように不信感が渦巻く中で、最も成功しているリーダーは、変化をルーチン化し、すなわち変化を日常の業務プロセスとして扱うことで、従業員が制御不能な変化を乗り切れるようにしていることがわかった。変化をルーチン化するリーダーは、絶え間ない変革が常態であると認識している。また彼らは、従業員にとって第2の天性のように感じられるほど十分に訓練された変化対応スキルと、継続的な変化を受け入れるための適切なマインドセットを備えさせることを、みずからの継続的な責任と捉えている。

 変化のルーチン化に成功するためには、以下の3つの戦略を取り入れることが必要である。

変化は目的地ではなく、過程であることを伝える

 従来、リーダーは変化がもたらす望ましい成果やメリットを強調することによって、変化を促してきた。だが、組織の変革能力を信頼していない従業員は、もはやそうしたビジョンが実現するとは信じていない。

 今日、成果を挙げている変革のリーダーは、変革とは明確な経路も決まった目的地もない過程であることを認識している。変わることのメリットをアピールするのではなく、行動を起こさないリスクを強調して、切迫感を生み出す。そして、変化の過程における継続的な小さな成果こそが成功の指標であることを明確にすることで、前進することの価値を高めている。

 そして、リーダーは透明性を持って情報を共有すると同時に、従業員が情報を吸収する力を最大化するために、コミュニケーションの焦点を絞り込んでいる。たとえば、ある米国の銀行では、リーダーは従業員へのメッセージを考える際の指針として、次の問いを用いることが奨励されている。

・なぜその変化が起きているのか

・誰がその変化の影響を受けるのか

・他の変化とどのようにつながっているのか

・この変化はどのように従業員に影響を与える可能性があるのか

 また、この銀行のリーダーは、変化をどのように語るかを慎重に調整している。もしその時点でチームに直接影響が及ばない場合は、そのチームのリーダーは、他の部署で起きている変化について話す。そうすることで、従業員に行動につながらない情報を過剰に与えることなく、自分たちが継続的に変革している組織の一員であることを示すことができる。

熱意を煽るのではなく、変化に備えさせる

 一般に、リーダーは従業員の熱意をかき立て、個々の取り組みにツールやリソースなどのサポートを提供することによって、変化を促進しようとする。だが、変化を特別な出来事のように扱い、個々のイベントに期待感を高めるやり方は、今日の状況にそぐわない。

 従業員が制御不能な変化の中でも活躍できるようにするには、適切なマインドセットを身につけさせ、変化に対応するスキルが第2の天性となるまで練習させることが重要である。そうすれば、従業員はいつ、いかなる変化でも受け入れる態勢ができる。

 変化を乗り切る過程には感情の変化が伴う。これまでリーダーは、メリットがコストを上回ることを約束して、従業員に不快感を克服させようとしてきたかもしれない。だが制御不能な変化の時代では、従業員は不快感を前向きに受け入れる必要がある。そこでリーダーに求められるのは、従業員の感情制御をサポートすることだ。

 ある大手製薬企業は、従業員が変化に否定的な反応をする理由を自身で理解できるようにしたいと考えた。そこで、デイビッド・ロックのSCARFモデルのような既存の枠組みに基づいてリーダー用のツールを開発し、リーダーが従業員の変化への懸念を理解し対応できるようにした。

 たとえば、リーダーはこのツールを使って、従業員がある業務プロセスの自動化に反発する本当の理由が、新たなプロセスの有効性ではなく、自身の専門能力の価値が失われることへの不安だと気づくかもしれない。そこがはっきりすると、リーダーは「新しいプロセスの改善には、やはりあなたの専門能力が欠かせません」といった声がけによって安心させることができる。それでもなお、従業員には新しいプロセスへの不快感が残るかもしれない。だが、自分で不快感の原因を理解していると、不快であっても変化を受け入れて前進できるようになることが多い。

 変化を受け入れて前向きに進もうという姿勢になったら、変化に適応するスキルも必要だ。変化をルーチン化するリーダーは、「変化に対する反射的行動」の形成を支援する。この反射的行動は、複数の変化のシナリオに適用できる中核的なスキルであり、繰り返し練習することによって直観的なものになる。

 ガートナーの研究は、変化に対する反射的行動の6つの中核的な要素を明らかにした。

・新しい体験を開かれた態度で受け入れる

・時間を効果的に管理する

・自社のビジネスが置かれている状況や環境を理解する

・テクノロジーを効果的に活用する

・過去の経験に関係なく、誰とでも協働する

・感情を制御する

 これらの変化に対する反射的行動を練習して身につけるうえで最適な時間は、日常の仕事の中にある。たとえば、ある金融サービス企業は、リーダーがコーチングの機会(同社はこれを「小さな変化の瞬間」と呼ぶ。大きな変化の際に従業員が経験する状況に似たタスクや活動のこと)を特定できるように支援した。この小さな変化の瞬間は頻繁に発生するので、あまりストレスのかからない状況下で、日常的に練習することができ、変化に対する反射的行動を形成するのに適している。たとえば、チームがなかなか効率的に時間を管理できない場合、リーダーは、新しい優先事項に取り組むためにタイムラインをどう調整すればよいかを、自然な流れの中で従業員に質問できるだろう。

現在の変化だけではなく、複数の起こりうるシナリオを予測する

 変化のリーダーは予想外の事態を想定するが、変化をルーチン化するリーダーは、この洞察をさらに一歩進める。彼らは優れたビジネス感覚と先見性のある思考を活かしてシナリオをつくるだけではなく、未来のシナリオがチームに与えうる影響をチームメンバーで分析し、それに備える力を持てるように支援する。

 ある金融サービス機関は、リーダーがチームの洞察力やビジネス感覚を構築できるように、状況理解のエクササイズを提供している。まずリーダーが、外部のトリガー(AIや規制など)のうち組織に変化をもたらす可能性のあるものを特定する。次にリーダーは従業員に対し、そのトリガーについて調査させ、学んだことをチームに教えるという役割を与える。チームはグループになって、起こりうる未来のシナリオや、対応に必要なスキルについて話し合う。やがて、従業員は到来しそうな変化や、多岐にわたる未来の変化を取り入れるために形成すべきスキルを、より直観的に理解するようになる。

* * *

 この制御不能な変化の時代には、変化そのものが変化する事態を避けられない。だが、継続的な変化を常態と捉えて、従業員の変化に対する反射的行動を形成するならば、従業員は次に取るべき行動を、より直観的に理解できるようになるだろう。たとえば、ソフトウェアの実装で新たなプロセスが必要なことがわかったら、変化に対する反射的行動を備えた従業員は、上層部からの指示を待つのではなく、自立的に適応し、変化が展開する中で新しいワークフローを構築できるだろう。

 従業員の変化に対する反射的行動に投資するリーダーは、制御不能な変化が渦巻く未来に向けて、組織の態勢をより適切に整えることができる。そうしたリーダーは変化をカオス、破壊的、コントロール不能、打ちのめすようなものと捉えるのではなく、他のスキルと同様、習熟可能な中核的能力(コアケイパビリティ)として捉えているのだ。


"Why Keeping Up with Change Feels Harder Than Ever," HBR.org, January 15, 2026.